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人を自殺させるだけの簡単なお仕事です
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396_0.jpg

1: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:29:03.95 ID:4S5e64sI0

僕の仕事は、主に、部屋の掃除でした

なぜ他人の部屋をわざわざ掃除するのかと言うと
自殺には身辺整理がつきものだからです

きちんと掃除して、遺書を残して死ねば
その人の自殺を疑う人は、まずいません
とにかく綺麗にすること、それが大事なのです

手順は以下の通り定められています

①その人の体をのっとる
②辛そうに振る舞う
③身の回りを綺麗にする(これが一番大変)
④遺書を書く
⑤死ぬ




3: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:31:34.87 ID:4S5e64sI0

そのとき標的となっていたのは
神経質そうな目をした女の子でした
結果的には、これが僕の最後の仕事となりました

それまで僕が自殺させてきたのは
いかにも悪いことをしていそうな人たちで
こんなに若く、無害そうな標的は初めてでした

華奢で色白で、視線は常に下を向いていて、
笑い方がとっても控えめな女の子でした


2: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:31:11.64 ID:qBMIlllg0

今まで何人くらい?


4: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:33:23.11 ID:4S5e64sI0

>>2
この女の子が七人目となる予定でした


5: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:34:14.68 ID:jwqGr8xe0

>>1
スタンド使いか? 魔法使いか?
その両方か?


8: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:35:58.42 ID:4S5e64sI0

>>5
職業特権です


9: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:38:14.18 ID:4S5e64sI0

それでも標的とされている以上
悪い人間であることに間違いはありません

人の二、三人、平気で殺しているのでしょう

僕は目を閉じて、遠く離れた場所にいる
標的の顔を思い浮かべ、体をのっとりました

八月の、よく晴れた日のことです
最後の仕事が始まりました


10: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:43:16.07 ID:4S5e64sI0

標的は、窓の外を見ていました

場所は高校の教室で、授業中のようです
誰しも黒板とノートを交互に見て
忙しそうに板書を取っています

その中で、標的の女の子だけは、
のんびり外を眺めていたのでした

外は、特に面白いものがあるわけでもありません
バス停、ローソン、薬王堂、ジョイス、
やけに目立つボンカレーの看板、
いかにも田舎っぽい風景が広がっています


11: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:47:23.12 ID:4S5e64sI0

試しに、標的の手を動かしてみました
ペンが妙に大きく感じるのは
この子の手がそれほど小さいということなのでしょう

教師の板書を丁寧に写してみます
すらすら動いて、調子はよさそうです
標的が抵抗してくる様子もありません

ふと教師の顔を見ると、こちらを見て
驚いたような顔をしていました
その意味はもう少し後になってわかります


12: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:50:59.04 ID:4S5e64sI0

標的の女の子の出方をうかがうために
僕はノートに「はじめまして」と書きました

そこで一旦、操作を解きます
標的は自分の手を開いたり閉じたりして
自由になれたことを確認していました

自分が操作されている自覚はあるようです
人によってはそれさえも気づかないのですが

標的は、自分の書いた「はじめまして」を
興味深そうにじっと見つめていました
それ以上の反応はありませんでした


13: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:55:26.54 ID:4S5e64sI0

授業が終わり、昼休みが始まります
再び標的の体を乗っ取ります
ここからが本番です

まずは標的の知人に対して、
標的が辛そうにしている姿を見せる必要があります

ためいきを増やしたり、口数を減らしたり、
いつもと違うことを言わせたり

そうすることで、「自殺の前兆はあった」と
周りが思い込み、自殺にリアリティが出るのです


15: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 12:58:04.71 ID:4S5e64sI0

僕は教室を見回して、標的の友人を探しました

しかし、話しかけてくる人どころか、
こちらに視線を向ける者さえいません

皆、それぞれに固まって、昼食をとりはじめます
僕は誰かが声をかけてくれるのを待っていました


16: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 13:03:57.55 ID:4S5e64sI0

昼休みの半分まで来ても
標的は取り残されていました

僕はそこでようやく気付きます、
この教室で、この子(標的)が孤立しているのは
とっても自然な状態なのだということに

どうやら標的は、いわゆる「ひとりぼっち」のようでした


18: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 13:09:07.84 ID:4S5e64sI0

困ったことになったと思いましたが、
良く考えてみると、好都合なことでした

周りと接点のない人物というのは
いつ死んでも説得力があるからです

インタビューされた同級生に
「無口な人だった」の一言で片づけられるような
「その他」のカテゴリーに属する人種


19: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 13:13:39.53 ID:4S5e64sI0

しばらく放っておくことにしました
なにせ、することがありません

標的は、理想的な「自殺しそうな人」を、
黙っていても演じてくれるようでした

僕は標的の操作を一時的に解除しました


20: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 13:19:20.98 ID:4S5e64sI0

僕はアパートの一室から標的を操っていました
顔さえ知っていれば、どこからでも操れるのです

目覚ましを合わせ、僕は昼寝を始めました
人を操るには体力がいります

次の仕事は、一番大変な「身辺整理」です
それまでに体調を万全にしておく必要がありました


21: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 13:25:06.51 ID:4S5e64sI0

目を覚まして標的の様子をうかがうと、
ちょうど最後の授業が終わり、標的が、
誰よりも早く教室を出るところでした

部活には入っていないようです
ウォークマンのイヤホンを耳に差し込むと
標的の女の子はまっすぐ家に帰しました

彼女が帰宅し、自室に入ったところで
僕は再び体をのっとりました
標的の目を通して部屋を見渡します

「なんだこれは?」というのが
僕が最初に抱いた感想です


22: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 13:31:22.68 ID:4S5e64sI0

しばらく途方に暮れてしまいました

だって、身辺整理しようにも、
最低限の家具と教科書類以外
その部屋にはなんにもないのです

雑誌も、本も、テレビも、パソコンも、
クッションも、ぬいぐるみも、観葉植物も、
その部屋には、なーんにもないのです


25: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 21:55:54.06 ID:4S5e64sI0

慣れた僕でも、人によっては
五時間くらいかかる身辺整理が、
この子だと、二分で済んでしまいました

唯一のゴミは、酒瓶でした
一番下の引き出しに、いくつか入っていました

僕は嬉々として瓶を袋に詰めましたが、
よくよく考えると、酒瓶に関しては、
置いてあった方が自殺者らしくなるので、
もとあった場所に戻しておきました


26: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 22:01:42.56 ID:4S5e64sI0

唯一、人間性を感じさせるものとして、
棚に無造作に置かれたCDがありました
それを聞くためのプレイヤーと、ヘッドホンも

アレサ・フランクリン、ジャニス・ジョプリン、
ビリー・ホリデイ、ベッシー・スミス
いかにも憂鬱な人間のチョイスでした

これに関しても、部屋に置いてあった方が
自殺者らしくなるので、放っておきました


27: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 22:04:02.98 ID:4S5e64sI0

こんなに楽な仕事は初めてでした
お膳立てされていたといってもいいくらいです

今すぐ自殺させても、何の問題もないくらいでした
下手に僕が手を加えないほうがよさそうです

拍子抜けと言うか、騙されているような気さえしました
とは言え、楽であるに越したことはありません


28: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 22:15:55.96 ID:4S5e64sI0

仕上げに、標的の手で、遺書を書かせます

世界史の教科書の端を破り取って、そこに
「むなしいので死にます」と書きました

多分、この女の子が遺書を書くとしたら、
ごくごくシンプルで、誰のせいにもせず、
それでいて案外切実なことを書くと思ったのです


29: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 22:43:01.15 ID:4S5e64sI0

遺書をポケットに入れて、
家を出ようとしたときでした

標的の女の子が、初めて反抗しました
それも、信じられないほど強い力で、です
危うくコントロール権を奪回されるところでした

「待って」と標的は口を動かしました
無理に動かしたので、唇が切れ、
そこから血が流れだしました

驚く半面、僕は安心してもいました
このままだと、上手く行き過ぎて
逆に気味が悪いと思ったからです


30: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 22:53:10.22 ID:4S5e64sI0

標的の女の子は、こんなことを言いました
「遺書の文面を、少しだけ、弄らせてほしいんです」


31: 名も無き被検体774号+ 2012/07/22(日) 23:58:54.14 ID:Y30el+020

おいはよバンバンバン


32: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 00:17:38.19 ID:Ngo8f8dj0

僕は自分で言う代わりに少女に喋らせます
「どういうことだ?」
傍から見ると、女の子の独り言です

少女は答えます
「『面倒なので死にます』に変えさせてくれませんか?」

「どうして?」

「こいつなんか、死んだ方が良かったんだ、
 って思わせたいんです。できることなら」


33: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 00:23:19.80 ID:Ngo8f8dj0

僕はしばらく黙っていましたが、
それくらいはいいか、と思い、
文面を彼女の言う通りに直しました

標的の口が、「ありがとうございます」と
言おうとしたのが分かりました

結局、命乞いは一度もされずに終わりそうです
いったいこいつは何を考えているんだろう?

そこで僕はふと、あることに気付きます


37: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 00:43:15.07 ID:Ngo8f8dj0

ひょっとするとこの女の子は、初めから
自殺する気でいたのではないでしょうか

身辺整理も済んで、遺書の内容も決めて、
ただ、踏ん切りがつかずにいたのではないでしょうか

だとすると、僕のやっていることは
自分では決心をつけられずにいた自殺志願者を
望みどおりに殺してやる、というだけのことになります


38: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 00:54:46.70 ID:Ngo8f8dj0

そういうのは、僕の望むところではありませんでした
死にたがっている人を殺すのはつまらないことです

殺す前に少し、この女の子をいじめてやろう
そう僕は思ったのでした

標的の体をのっとり、遺書とは別の書き置きを用意し、
それを居間のテーブルに置いて、僕は家を出ました

女の子には、これから一晩中歩いてもらうことにします


46: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 12:35:35.16 ID:Ngo8f8dj0

そこは非常に坂の多い街です
階段や段差がそこら中にあり
自転車に乗る人はめったにいません

傾斜が20%をこえるところも多くあり
また、狭く曲がりくねった道が多いところです

その中を、転べば折れそうなほど華奢な足で、
どこまでもどこまでも歩いてもらいます


47: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 12:49:05.04 ID:Ngo8f8dj0

キリギリスやコオロギの鳴き声が響いていました
ひどく蒸し暑い夜でした
たちまち女の子は汗だくになります

靴のせいもあり、三時間ほど歩いた辺りからは、
脚全体がひどく痛むようになります

特に土踏まずとふくらはぎには激痛が走り
一歩一歩に苦痛を感じるようになってきます
顔を上げることもままならない状態です


48: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 13:19:22.22 ID:Ngo8f8dj0

どうしようもなく喉が渇いたときには
自販機の前でコントロール権を渡してやります
小銭だけは持たせてきたのでした

ポイントは、彼女が自分の意志で
飲み物を買って飲むということです

それでも疲労はどんどん溜まり
痛みはどんどん増してゆき
お腹はどんどん空いていきます


49: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 13:27:07.54 ID:Ngo8f8dj0

八時間ほど歩いたところで
標的はようやく目的地につきました

そこは、街を一望できる展望台です
螺旋階段をのぼりきったところで
僕は標的の女の子の操作を解除します

体力の限界を超えて動かされていた彼女は
途端にその場に崩れ落ちますが
彼女の体は、あらかじめ準備しておいた
椅子の上にちょうどおさまります

テーブルをはさんで、向かい側に僕が座っています


51: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 13:37:07.69 ID:Ngo8f8dj0

たかだか数百円のカップラーメンを
汁も残さず食べきった卑しい標的は、
自分が死にたがっていたことも忘れて
手摺に肘を乗せて、街を見下ろして
「きれいー」とはしゃいでします

物を考える力がなくなっているらしく
普段のように表情に抑制がありません

向きを変えようとして、足を絡ませて、
おもいっきり笑顔で転んでいます


52: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 13:48:27.84 ID:Ngo8f8dj0

「ところで、私のこと、殺さないんですか?」
標的は振り返って僕にたずねます

僕は説明しようとしますが、上手く言葉が出てきません
僕自身も物を考える力がなくなっていました

標的は八時間歩いて疲弊しきっているわけですが
こちらとしても、八時間標的を歩かせ続けるのは
自分で歩くのと同じか、それ以上に疲れるものなのです


53: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 13:58:30.99 ID:Ngo8f8dj0

面倒なので、いったん標的を家に帰すことにしました
今日のところは、飲み食いする喜びを
身体に叩き込むだけで勘弁してやろう、というわけです

僕が手招きすると、標的は黙ってついてきました
よく分かりませんが、従順で扱いやすい子です
どうせ操られるだろう、という諦めでしょうか

僕たちはふらつきながら螺旋階段を下りました
車のドアを開けて、運転席に乗り込むと
突然、猛烈な眠気に襲われました


55: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 14:11:23.44 ID:Ngo8f8dj0

標的が車の前で困ったような顔をしているので
助手席を開けて「乗れ」と言います
標的は「失礼します」と言って乗り込んできます

とても眠気に耐えきれそうもないので
十分ほど寝てから出発しようと決め
携帯の目覚ましをセットしている最中に
僕は眠りに落ちてしまいました


59: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 17:55:48.51 ID:Zmc/dUGx0

擬人化してるのかと思ったけど違うな


60: 名も無き被検体774号+ 2012/07/23(月) 18:17:56.90 ID:RzkYatCC0

引きこまれた


64: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 00:00:26.11 ID:Ngo8f8dj0

暑くて目が覚めました
車内には容赦なく朝の光が差し込んでいます

左に目をやると、女の子が眠っていました
僕はドアを開けて外に出て
展望台の下にある水道で顔を洗いました

体もずいぶん汗でベタついていたので
車に戻ってタオルを取りに行くと
ちょうど標的が目を覚ましたところでした
眠そうな目でこちらを見ていました


66: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 00:14:32.34 ID:dXNG+K4x0

二人で並んで体の汗を濡れタオルで拭きとりながら
さてどこから説明したものか、と考えました

乾いた風がひんやりと心地よいです
標的は靴下まで脱いで足を洗っています

普通なら標的の方から何か聞いてきそうな物ですが
この女の子はさっきから、何一つ訊ねてこないのです

参ったな、と考えているその時でした

「綺麗になったことだし、どうぞ」

突然、標的はそう言うと、”気をつけ”の姿勢をとり、
僕の顔をまっすぐ見据えました


69: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 00:27:38.04 ID:dXNG+K4x0

標的は両腕を広げて掌をこちらに向け、言いました
「落とすなり、吊るすなり、好きにしてください」

前髪から水滴がぽたぽた落ちて
濡れた手足がきらきら光っています

やっぱり気に入らないな、と僕は思います
「そのうち殺すさ、とてもひどいやり方で」

「とてもひどいやり方ですか」
標的は間抜け面で繰り返します

「ああ。だから、まず車に乗れ」

標的は靴を履き、車の方へ歩いて行きます


70: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 00:39:27.04 ID:dXNG+K4x0

しっかりした朝食をとらせると
僕は標的を高校まで送り届けました

少しでも教室への滞在時間を減らしたくて
遅刻寸前に学校に来る主義の標的としては
むしろいつもより早く登校したことになります

車を降りると、標的はこちらを振り返り、
小さく頭を下げ、歩いて行きました
呑気なものです


71: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 00:48:50.28 ID:dXNG+K4x0

こちらも一限の講義があるのですが
その前にひとつ、やっておくことがあります

目を閉じて、標的の顔を思い浮かべます
彼女はちょうど教室に入るところでした

標的は、なるべく目立たぬように、
静かにドアを開けて中に入ります

それでもドアの近くにいた連中は、
誰が来たのかを確認しようと目を向けます

そのとき、標的の表情がぱっと明るくなり、
口からは「おはよう」と朝の挨拶が出てきます
もちろん僕の仕業です


72: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 00:58:30.92 ID:dXNG+K4x0

周りの連中は誰も挨拶には応えません
それは勿論、誰も、彼女が挨拶してくるなどとは
想像さえしていないからです
聞き間違えだろう、くらいにしか思っていません

標的の顔が真っ赤に染まります
恥ずかしくて仕方がないのでしょう
死ぬのは平気でも、挨拶を無視されるのは嫌なのです


75: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 01:13:08.03 ID:dXNG+K4x0

ですがその後も、標的が廊下で
クラスメイトと擦れ違うたびに
僕は標的に感じ良く頭を下げさせました

標的はノートに「かんべんしてください」と
書いて僕に見せようとしていましたが
僕は何の反応もしてやりませんでした


76: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 01:20:59.42 ID:dXNG+K4x0

昼休みになると、標的はカロリーメイトを口に放り込み
イヤホンを耳にさして勉強を始めようとしたので
僕は体をのっとってイヤホンを引っこ抜きました

イヤホンなんてつけていたら、初めから周りとの
コミュニケーションを諦めている人みたいに見えるからです

標的はノートに「よけいなお世話です」と書きました

僕は標的の手を借りて、その文に取り消し線を引きます
そしてのその下に、「いやがらせ」と書いておきました

それを見た標的は、「ひどい」とだけ書き込みます


77: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 01:33:45.95 ID:dXNG+K4x0

授業がすべて終わると、標的は誰よりも早く教室を出ます
いつもはさり気なく一番目に帰宅する標的ですが、
この日はなりふり構わず急いで出て行きます

これ以上僕に何かされたら敵わないと思ったのでしょう
しかし、帰宅後、彼女に更なる悲劇が訪れます
もちろん実行犯は僕なのですが

標的の体をのっとった僕は、再び身辺整理を始めました


78: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 01:41:56.58 ID:dXNG+K4x0

一番下の引き出しにしまわれた、
カティサーク、ジョニーウォーカー赤、
エンシェントクランといったウィスキー

どこで手に入れたかは知りませんが
おそらく彼女の一番のお友達であるそれらを
僕はすべて洗面台に開けて流してしまいます

標的の口が「やめっ、もったいない」と動こうとします
今までで一番必死な反応だったかもしれません
ですが、知ったことではありません


79: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 01:51:48.67 ID:dXNG+K4x0

さて、彼女のスケジュールによれば、
ベッドに横になって音楽を聴きはじめる頃合でしたが、
僕は酒瓶をビニール袋に入れて引き出しに戻すと、
そのまま彼女を家の外に出しました

ただし、今回は八時間ぶっ通しで歩かせたりはしません
十分ほど歩いたところで、目的地の公園に着きます

二台あるブランコの片方に、彼女を座らせます
当然、もう一台のブランコには、僕が座っていました


80: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 02:01:24.80 ID:dXNG+K4x0

辺りは薄暗く、日暮が近くで鳴いています
僕は両手に抱えていた植木鉢を標的に渡します
標的は「なんですかこれ」と聞いてきます

「アグラオネマニティドゥムカーティシー」と僕は答えます

「いえ、品種のことじゃなくて。なんですかこれ」

「部屋が殺風景すぎるからな。観葉植物だ」

「……これも、いやがらせなんですか?」

「プレゼントに見えるか?」


81: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 02:14:45.36 ID:dXNG+K4x0

標的は植木鉢を掲げて、眺めます
「見えなくもないですね、綺麗ですし」

「そういうところが、気にくわないんだ」
ブランコから下りて、僕は標的の前に立ちます

標的は植木鉢を膝の上に抱えたまま
少し緊張した表情で僕の顔を見ます

しばらくその状態が続くと
ふいに標的は植木鉢を足元にやさしく置いて
「殺しますか?」と言ってブランコをこぎはじめました


82: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 02:27:02.63 ID:dXNG+K4x0

僕はあらためて聞いてみます
「結局お前は、殺されたがってるのか?」

「んー、殺した方がいいですよ」と標的は答えます
「初めてでもないんでしょう? 私で何人目ですか?」

僕はしばらくこう考えてから、こう言います
「どこまで知ってるんだ?」

標的はブランコをとめ、植木鉢に目をやり、
僕と目は合わせずに、こう言いました

「知ってるも何も、今あなたがしてるのは、
 むかし私がしてたこと、そのままなんですよ」


90: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 09:58:09.71 ID:dXNG+K4x0

「八人、自殺させました。標的は十九歳から七十二歳まで。
 男が六人、女が二人。四人は飛び降りで処理しました。
 ロープが三人で、あとの一人はカミソリです」

「あなたもそうだと思うんですが、ある日突然、
 人の体をのっとれるようになって、同時に、
 自分が何をしなければならないのかが分かりました」

「最初の一人の他は、上手いことやれたと思います。
 この仕事の良いところは、一人自殺させるたびに、
 自分も死んで、生まれ変わったような気分になれることでした」


91: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 10:12:55.58 ID:dXNG+K4x0

「あなたは、どうして自分がその能力を
 持つようになったのか、分かりますか?」

僕は首をふりました

「これはあくまで私の予想に過ぎませんが、
 あなたにバトンが受け継がれたのは、
 おそらく、私が人を殺すのをやめたせいです。

 九人目で、私はありがちなミスを犯しました。
 同情してしまったんです、標的に対して」


92: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 10:27:32.93 ID:dXNG+K4x0

「とたんに私の能力は失われました。
 その後で、私が逃した標的は、自殺しました
 たぶん、私の代わりに、後任が現れたんでしょうね。
 私はもう使えないって判断されたんでしょう」

標的が顔を上げて聞いてきます
「あなたが初めて殺したのって、二十代の女性でしょう?
 茶髪でセミロング、背は高め、指が綺麗な女の人」

僕が黙っているのを、標的は肯定と受け取ったようでした


93: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 10:43:22.27 ID:dXNG+K4x0

「あの人のこと、私、殺せなかったんですよ。
 だって、あの人、笑っちゃいますよね、ああ見えて、
 写真とお喋りするのが一番の娯楽なんですよ。

 理由はわからないけど、そういうのって、
 すごくげんなりさせられるじゃないですか」

「あの人を見逃してからしばらくして、
 私は人の体をのっとる力を失いました。
 更にしばらくして、今度は、体をのっとられたんです」

標的は僕を指差して言います、「あなたに」


94: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 12:04:26.17 ID:6qxjobnx0

なんかこんな話の小説読んだことがあるんだが
タイトルが思い出せん

それとも、それも気のせいで、ただの既視感?


95: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 12:13:23.67 ID:UA+CqfM50

続きが気になる


100: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 13:34:01.76 ID:nqS2gb950

これひょっとしてすごくね


101: 名も無き被検体774号+ 2012/07/24(火) 13:51:18.34 ID:KJ6aYslS0

すげぇなこれ


115: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 00:40:10.02 ID:oWMC0VdT0


まだかな


118: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 01:28:01.26 ID:YnV5eIue0

スレタイだけ見て大津関連だと思ってしまった


127: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 10:01:40.88 ID:SK1VR7U20

ほしゅ


137: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 20:41:10.53 ID:52mnJyl2O

>>1さん帰ってきてほしいなぁ


140: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 22:32:16.29 ID:5B7gcMQa0

「いわゆる”用済み”ってやつなんでしょうね。
 前任者は後任者に消されるシステムなんでしょう」

「私が自殺させた人の中にも、ひょっとすると、
 以前は私と同じようなことをしていた人がいたのかもしれません」

「だから」、標的は笑って言います
「殺しちゃった方が、話は早いでしょう?
 そうしないと、次はあなたも狙われますしね」


141: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 22:40:44.50 ID:9yrowVvI0

待ってました!


143: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 22:45:21.94 ID:73C1LIo/O

おかえり!
続き気になる


145: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 22:51:18.84 ID:5B7gcMQa0

おお、なんかありがとう


146: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 22:54:35.86 ID:5B7gcMQa0

答える代わりに、僕はまたこの質問を口にしました
「結局お前は、殺されたがってるのか?」

「そうするのが、一番なんだと思います」

「”お前”が、殺されたがってるのか?」

「私、ですか。……そうですね、死ぬのは怖いです、
 でもそれ以上に、死んだ方が楽だろうなあと思ってます。
 うん、そうですね。たぶん私は殺されたいんです」


148: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 23:09:57.92 ID:5B7gcMQa0

「なら話は早い」と僕は言います、
「楽になる手伝いなんてごめんだね。
 俺は、お前には、『今死ぬわけにはいかない』
 って悔しがりながら死んで欲しいんだ」

標的は無表情に僕を見つめます
「その前にあなたが死ぬと思いますよ」

「いいさ。死んだ方が楽だろうと思うしな」

「……まねしないでください」

「アグラオネマは直射日光に弱い」

「はい?」首を傾げつつ、標的は植木鉢に目をやります


150: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 23:19:11.23 ID:5B7gcMQa0

「しかし、明るい場所で育てる必要はある。
 変な表現だが、『明るい日陰』におくといい」

「……あの、私、もうすぐ死ぬんですよ?
 あなたが殺さなくても、別の誰かが殺しますし」

「高温多湿を好むから、暖かい場所に置いて、
 一日一回は霧吹きで葉に水をかけてやれ。
 水も、やりすぎない程度にたっぷりな」

「育てませんってば」

「ついでに言うと、高価な植物だ。
 あの手のウイスキーが十本くらい買える」

「ええっ」標的の体がこわばります
頭の中は酒瓶でいっぱいなのでしょう


152: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 23:29:49.73 ID:5B7gcMQa0

「枯らしてしまったときは、お前の体を乗っ取って、
 クラスメイトに『友達になってください』って言って回る」

「そういうのはほんとにやめてください。
 アグラ……ムドゥ……なんでしたっけ?」

「カーティシーでいい。覚えろ」

「かーてぃしー」

「そうだ」

「あおぞらです」

「……ん?」僕は星空を見上げます

「私の名前です。覚えてください」

「ああ、名前か。知ってるよ」

「くもりぞらではないです」

「青空だろ。確かに似合わない名前だよ」


153: 名も無き被検体774号+ 2012/07/25(水) 23:46:05.16 ID:5B7gcMQa0

「それで、あなたの名前は?」

「くもりぞらだ」と僕は言います

「まねしないでくださいってば」

「本当だよ。すばらしい偶然だな」

「ふうん。似合う名前で良かったですね」
青空は拗ねたような顔をして言います
「……それで、私はこれ、カーティシーを、
 このまま持って帰るんですか?」

「そりゃあそうだ」

「恥ずかしいなあ」

「恥ずかしい思いは、これから沢山してもらう」

「今日のだけで死にそうなんですけどね」

「人はそう簡単には死なない」

「あなたが言うと説得力がありますね」


161: 名も無き被検体774号+ 2012/07/26(木) 05:15:31.41 ID:d9eG0hZc0

おいおい、おもしろいじゃないか


168: 名も無き被検体774号+ 2012/07/26(木) 13:42:55.56 ID:eC7dYolM0

続きが気になってしゃーない


185: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 00:07:31.37 ID:H0TWczxL0

「さて、そろそろ解散といくか」
青空の顔を見つめながら、僕は言います
「なんだかお前、いきいきしてきたからな」

青空は痛いところをつかれて
慌てて緩んでいた表情を引き締め
「別に、そんな」と言いながら顔を赤くします

”実は人と話すのが好き”などと思われるのは
青空のような者にとっては最も苦痛なことなのです


189: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 00:29:14.69 ID:H0TWczxL0

「さようなら、くもりぞらさん」
青空は公園を出て行きました
逃げるように早足で出て行ったので
公園の前にいた人に気づきませんでした

青空のクラスメイトの男は
公園から出てきた青空を見たあと
その手に抱えられた植木鉢を見て
見てはいけないものを見たように目を逸らしました

すかさず僕は青空の体をのっとります
感じの良い笑顔で「こんばんは」と言います
相手の男は、とても困った顔をしましたが
「ちわっす」と頭を軽く下げました


190: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 00:43:27.62 ID:H0TWczxL0

クラスメイトの男が去って行くと
青空は僕のところまで戻ってきて言います
「いったい、なにがしたいんですか?」
よほど恥ずかしかったのか、涙目になっています

「お前がしたくないことをお前にをさせたい。
 お前がしたいことはお前にさせたくない」

「変な人と思われたじゃないですか、
 公園から植物盗んだ人みたいじゃないですか」

「いいじゃないか、どうせ死ぬんだろ?」

「確かにそうですけど、それでも、死ぬ直前まで、
 死んだ後の自分を想像する自分はいるんですよ」

「いいことを言う、その通りだ。だからやりがいがある」

呆れたような顔で青空が僕に言います
「女子高生に嫌がらせして楽しいですか?」

「楽しいぜ。今度やってみな


204: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:05:48.39 ID:H0TWczxL0

それからも毎日、僕は青空が知人と出会うたびに
礼儀正しく挨拶させ、時には会話までさせました

周りが少しずつ、青空が口を開いても
違和感を覚えなくなってきたところで、
惜しくも課外授業が終わってしまいます

最期の授業が終わった後、
青空はまっさきに教室を出ると思いきや、
ノートの隅に、おそらく僕に向けた
メッセージを書きはじめました


205: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:14:34.69 ID:H0TWczxL0

青空は、以前僕がそうしていたように、
ブランコに腰掛けて待っていました

「こんばんは、くもりぞらさん」

真夏日の昼間で、ブランコの椅子は
ひどく熱を持っていました

カーティシーの育て方について、
今のやり方で合っているのか確認したい、
というのが青空の要望でした

話を聞く限り、青空の育て方に
特に間違った点はなさそうでした


207: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:19:49.56 ID:H0TWczxL0

「こんばんは」じゃなくて「こんにちは」だね
俺あたまおかしい


208: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:21:41.16 ID:H0TWczxL0

「糞暑いな」と僕は汗を拭います

「落としてあげましょうか、川とかに。涼しげですし」

僕は無視してシーブリーズを体に塗ります

「いつか落としてやりますからね」
青空は僕に小石を定期的に投げてきます

僕は青空の体をのっとり、水飲み場で
おでこで水を飲ませてやります

制服までびしょ濡れになった青空は、
「涼しげでいいです」とブランコに座って言います


209: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:34:42.99 ID:H0TWczxL0

「お前はもう夏休みか。残念だな」と僕は言います
「もっと色々やらせようと思ってたんだが」

「夏休み大好きです」と青空はばんざいします
「人と会わなくて済むし、家にいられるし。
 お酒は誰かが捨てたから飲めませんが」

「人と会うのも、外に出るのも嫌なのか」
僕がそう聞くと、青空は「しまった」という顔をして、
「ええと……どちらかと言えば」と濁します

青空の体をのっとり、僕はポケットをまさぐります

ところが目当てのものは見つかりません
しかたなく、操作をいったん解除します


210: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:43:03.33 ID:H0TWczxL0

「お前」僕は聞きます、「携帯はどうした?」

「携帯? 持ってませんよ、そんなもの」

「携帯電話を持ってない? 今時の女子高生が?」

「必要ないことくらい見ればわかるでしょう。
 いままで気付かなかったんですか?」
前髪をしぼりながら青空は言います

確かに、青空が携帯電話を持っても、
目覚し時計と化すのが目に見えています


211: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 13:49:30.24 ID:H0TWczxL0

「なにをするつもりだったんですか?」

「知人に連絡して、遊びに誘ったりするつもりだった」

「断られますよ、そんなの」

「そうなれば尚良かった。お前傷つくだろうし」

「……そうですね。効果覿面でしょう」

「お前が人に会いたくなくて外に出たくないなら、
 俺はお前を人に会わせて外に出そうと思ったんだ」

「間に合ってます。もう外に出てますし、
 現にこうしてくもりぞらさんと会ってるんです」

「じゃあそれを継続しよう」と僕は提案します
提案と言うか、もう決定なのですが


217: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 18:51:20.89 ID:H0TWczxL0

青空はお酒が飲みたいそうなので
僕は青空を喫茶店に連れて行きました
エスプレッソをふたつ注文します

「私コーヒー苦手なんですよ。にがいから」

「知ってる。ウィスキーは飲めるのに、変な話だ」

「コーヒー、毒みたいな味するじゃないですか」

「毒を飲んだことがあるような口ぶりだな」

「ええ、他人の体を使って、ですが」

僕が何も言わずにいると、青空は
「冗談でしたー」と言って微笑みます
冗談にしても分かりにくいし、何より面白くありません


218: 名も無き被検体774号+ 2012/07/27(金) 19:01:00.18 ID:H0TWczxL0

僕が机の上に広げた参考書をのぞきこみ、
青空は不思議そうな顔をします

「勉強するんですか?」

「ああ。試験が近いんだ」

「そっか……そうなのか。私も勉強しよう」
青空は鞄から速読英単語を取りだします
それを見た僕は、なんだか懐かしい気分になります

運ばれてきたコーヒーに、砂糖をたっぷり入れ、
おそるおそる口をつけた青空は、「にがいー」と顔を歪めます


247: 名も無き被検体774号+ 2012/07/28(土) 23:58:31.32 ID:8I4+VxX50

「ちなみに私は、標的を見逃してから、
 一週間くらいで能力を失いましたよ」

勉強を始めて二時間ほど経ったところで
青空が伸びをしながらそう言いました

「関係ないな。別に見逃したつもりはないから」

「傍から見ても、そう見えますかね?」

「ああ。どう見ても標的を狙う殺し屋だ」

「ふうん」青空はつまらなそうに言います
「それはそうと、勉強、はかどりますね。
 なるほど、ここは勉強するのに良さそうです」

「なんてこった」と僕は言います、「勉強はやめにしよう」


249: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 00:06:13.23 ID:5WSHyzFN0

映画館に入った僕たちは、階段を下りていきます

「たしかに勉強には向かない場所ですね」
青空はきょろきょろしながらそう言います

連日の試験勉強で睡眠不足だった僕は
映画が始まって数分で眠ってしまいます

目を覚ますとほとんど映画は終わっています
登場人物たちは何かに感動して泣いている様子です
勝手に盛り上がってるんじゃねえよ、と僕は思います

「どんな映画だった?」と僕が聞くと
「殺人犯が酷い目にあう映画」と青空は答えます
映画の製作者もがっかりしていることでしょう


251: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 00:18:14.57 ID:5WSHyzFN0

「映画もドラマもそうですけど、人を殺した罪人って、
 大抵、なにがあろうと、最終的には死にますよね」

「『人を殺すような奴は死んでしまえ』ってことだろう」
僕はくしゃみをしてから言います
「そういった意味での公正さを、人は求めてる」

「たとえ改心したとしても?」

「やっぱり、一度でも人を殺したような奴は、
 たとえその後で聖人みたいになったところで、
 どこか安心できないところがあるんだろう」

「私たちは死んだ方がいいってことですね?」

「つまりはそういうことなんだろうな」


252: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 00:34:06.70 ID:5WSHyzFN0

「なんだかそういうのはわくわくしますね」
前を歩く青空は、映画館出た後、振り返ってそう言います
「ここに生きているべきでない若者がふたり」

「なにがどう、わくわくするんだ?」

「あおぞらとくもりぞらですしね」
そう言って青空は僕の顔をのぞき込みます
何か言いたげな笑みを浮かべています


256: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 00:55:00.05 ID:LJapXOu80

結構気になるw


258: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 02:58:33.23 ID:IboVztYQ0

ほしゅ


260: 忍法帖【Lv=3,xxxP】 2012/07/29(日) 03:24:03.04 ID:mMb9c8gZ0



262: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 04:26:29.93 ID:529HCz9Q0



263: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 06:29:58.20 ID:roBRBqI7O



264: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 07:16:07.95 ID:zyrFfHzC0



265: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 07:17:39.53 ID:il/sFmwt0



266: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 07:21:25.81 ID:+Rxvafu4O



267: 忍法帖【Lv=22,xxxPT】 2012/07/29(日) 07:43:06.46 ID:xQ8chVR10



268: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 08:59:39.07 ID:acdEA4SP0

>>267


269: 名も無き被検体774号+ 2012/07/29(日) 09:36:36.74 ID:vfUsHkcy0

>>267
>>267


294: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 03:10:22.43 ID:JNVyUKz10

♫まだかなまだかな~( ^ω^)


301: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 08:28:44.57 ID:w8GOmhXY0

これ最後まで結末決めてないんじゃね保守


304: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 11:30:41.73 ID:Vi6e/PR90

あおぞらがめっちゃかわいいんだけど
どうしてくれるんだよ


307: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 13:34:50.87 ID:4wnd+Egb0

電車男とか風俗行ったらより
こっちこそ小説化されるべき


312: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:11:17.00 ID:e6Xcvivh0

僕はなにか意地悪なことを言ってやろうとして
そのとき、不意に、「のぞかれた感じ」がしました

のぞかれた感じ。

「青空」僕は早口で聞きます
「一度、俺に遺書を直させようとして、
 ものすごい力で抵抗したことがあったよな。
 どうすればあれほどの力で抵抗できる?」

青空は「それはですね」と言いかけた後、すぐに勘付き、
「もしかして、のっとられてます?」と聞いてきます


314: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:24:58.55 ID:e6Xcvivh0

「いや、まだ大丈夫だけど、一瞬、覗かれたような感じがした」

「ああー。あれ、確かに覗かれてる感じしますよね」
青空はなぜか、はにかむように笑います
「ついにあなたも標的になっちゃったわけですね。なかまー」

「まだ決まったわけじゃない。俺の気のせいかもしれない」

「でも、仮に狙われ始めているんだとしてですよ、
 なんで私より先にあなたを狙うんでしょう?
 前回の経験から言うと、先に私を殺すはずなのに」

「俺もそう思ってたんだが、考えてみれば、今この場には、
 『死ぬべき人間』が二人そろってるわけだ。つまり――」


316: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:31:28.47 ID:e6Xcvivh0

「つまり、『お前を殺して俺も死ぬ』の形式が、
 いちばん手っ取り早いということですね」

納得したように青空がうなずきます

「相手の人、良い判断なんじゃないですかね。
 私と違ってくもりぞらさんは操られるの初めてだから、
 うまく抵抗することができないでしょうし。
 そっかー、私はくもりぞらさんに直接殺されるのか」

「さっさと言え、どうすれば操作に抵抗できる?」

青空はそっぽを向いて、つんとした態度で言います
「教えてあげません。教えて欲しそうだから」


317: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:40:57.75 ID:e6Xcvivh0

僕たちはちょうど、街の広場に着いたところでした
木陰に入ったところで、僕は青空の後ろに回り
青空の細くてひんやりした首に、右腕を巻き付けます

青空は力を抜き、黙ってそれを受け入れます
”気をつけ”の姿勢のまま、後ろの僕に体重を預けます
僕の腕は少しずつ青空の首を絞めていきます

体を乗っ取られるのは初めての経験でした
あまりにも違和感がなくて、最初は自分の意思で
自分を動かしているかのような錯覚を受けました

おそらく今僕の脳は、「腕が動いたということは、自分から
腕を動かそうとしたということだ」と解釈しているのでしょう


318: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 19:49:51.79 ID:e6Xcvivh0

青空の首に絡み付いた僕の腕に、徐々に力が入ります
やむを得ないと思い、僕は青空の体を乗っ取り、
自分(曇り空)の体を突き飛ばそうとします

しかし、僕と違い、青空には抵抗ができます
僕の操作に逆らって、一歩も動こうとしません
なるほど、青空は本当に僕に殺されたいようです

ですが、その抵抗から、僕はなんとなくヒントを得ます

青空の体がぐったりしてきたあたりで
僕の腕は徐々に青空の首から離れていきます
青空は僕の腕をすり抜け、地面に倒れます


319: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:03:19.17 ID:e6Xcvivh0

無理に操作に逆らった僕の腕は
いったん全体の皮膚をひっくり返されて
硬いもので万遍なく殴打されたように痛みます

両手が自由に動くことを確認すると、僕は
眠そうな目で僕を見上げている青空に話しかけます

「つまり、『操作に抵抗しよう』とするんじゃなくて、
 『操作の上書きをしよう』とすればいいってことか」

青空は不機嫌そうな顔で、小さな咳をします
「惜しかったなあ。気付くの早すぎですよ」


321: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:11:50.77 ID:e6Xcvivh0

「もしかすると、もとから知ってたんですか?」

「いや。俺の操作に、お前が抵抗する感じを参考にした。
 操りながら操られることで、とても効率良く学習できたらしい」

「なるほど……とは言え、体、めちゃくちゃ痛むでしょう?」

「ああ。自分が何しゃべってるかわからないくらい痛む」

「私もです。おまけに頭はくらくらするし。暑いし。
 くもりぞらさん、私、首の汗ひどかったでしょう?」

「べつに」

「ひどかったんです。ああ恥ずかしかった」
どうでもいいことばかり気にする女の子です


322: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:18:05.83 ID:e6Xcvivh0

「さてと」、僕はしゃがみこんで青空の顔をのぞきこみ、
目をそらした青空の頬を強めに引っぱります
「いたいいたいー」と青空は気の抜けた声で言います

「なあ、なにが『教えてあげません』だよ?」

「あなたのまねです。ざまーみろ」

「しかも俺の操作に抵抗しやがった」

「おかげでコツを掴めたんでしょう、良かったですね」

僕は立ち上がろうとして、後方にバランスを崩し、
手をついてその場にへたりこみます
その拍子に、地面にあった枝で手を切ってしまいます
まあいい、と僕は気にせず放っておきます


325: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:28:22.95 ID:e6Xcvivh0

僕たちはびっくりするほど体が動かなくなっていて
立ち上がるだけで汗だくになりました

石畳からの照り返しが暑さに拍車をかけます
芋虫みたいな速度で涼を求めて歩きます

広場の噴水のふちに腰掛けようとしたとき
僕は勢いあまって水の中に落ちました
腹筋に力が入らないとこういうことが起こるのです


327: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:37:02.97 ID:e6Xcvivh0

水面に顔を出して、僕は顔を両手でこすります
広場にいた人たちの視線が僕に集まっています
青空は体の痛むところをおさえながら笑っています

僕は諦めて、両手をついて水中に座り、空を見上げます
飛行機雲がふんわりまっすぐのびています

近くの木にとまった二羽のカラスがこちらを見ています
もうすぐ餌になる対象を見るような面構えです


328: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:44:02.76 ID:e6Xcvivh0

「なにやってんですか」と青空が言います
「また誰かに操られてるんですか?」

「涼しげでいいだろう」と僕は答えます

「体中痛いんだから、笑わせないでください」

「笑い死ね」

「びっしょびしょじゃないですか」

青空はそう言うと、噴水のふちに立ち
ひょいと飛んで僕の横に着水します

水飛沫があがり、僕は目をつむります
広場中の視線が再び僕らに集まります


329: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:53:21.95 ID:e6Xcvivh0

十秒以上たっても青空が顔を上げないので
僕は青空が体を起こすのを手伝います

「溺死するところでした」と青空は言います
「こんな子供用プールより浅い場所で」

「『噴水で女子高生死亡』なんて、
 ニュースを見た人が首を傾げるぞ」

「気持ちいいですね」青空は目を閉じて言います
「今もう一回操作されそうになったら、抵抗できます?


331: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 20:58:39.66 ID:e6Xcvivh0

「そこなんだよ。どうして向こうは追撃してこない?
 今なんか、頭を下げるだけで溺死させられるのに」

「抵抗されて、びっくりしてるんじゃないですか?
 経験のあるくもりぞらさんに聞きますけど、
 操作に逆らわれたとき、どんなことを思いました?」

僕は少し考えてから、答えます
「お前の場合、それ以前に色々とイレギュラーだったから、
 抵抗されても不自然に感じなかったんだよな」


332: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 21:07:36.54 ID:e6Xcvivh0

青空は褒められたわけでもないのに
ちょっと嬉しそうな表情になります

「でも相手が仮にお前じゃなかったとしたら、
 確かに、驚いて、様子見に入るかもしれない」

「なるほど……。あ、そうだ。くらえくもりぞらさん」
青空はそう言いつつ、僕の顔に水を掛けます
僕も無言で二倍の量を掛け返します

しばらくそれを繰り返した後、噴水を出て服を絞り、
水をぽたぽた滴らせながらベンチに行き、
並んで座って服が乾くのを待ちました

時刻を知らせる鐘が広場に鳴り響きます

服が乾くと、青空はくしゃみとあくびを交互にして、
「それじゃあ、また」と言って帰って行きました


333: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 21:08:14.20 ID:O2c0eN2h0

今北けど…何これ?面白い!


334: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 21:28:32.23 ID:4wnd+Egb0

今季No.1


336: 名も無き被検体774号+ 2012/07/30(月) 21:34:48.95 ID:pAt7d97G0

こうやってちゃんと創作やってくれりゃいいのに
今は事実振った糞創作スレ多すぎなんだよな


343: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 01:08:35.28 ID:b+xqAtiY0

俺も追いついた!
今世紀最大の良スレの予感。

がんばって完結させてくれよな!



http://bottisoku.blog.2nt.com/blog-entry-407.html
↑次:人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 終



1001 以下、おすすめリンクをお送りします 2012/01/01(日) 12:00:00.00 ID:BotTiSOkU



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[ 2012/08/14 19:11 ] SS | TB(0) | コメント(0)

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