http://bottisoku.blog.2nt.com/blog-entry-406.html
↑前:人を自殺させるだけの簡単なお仕事です
369: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 22:34:33.50 ID:rIGoNaRq0
ひょっとすると、僕はもう、二度と青空に
会うことはないのかもしれないな、と思います
向こうがなりふり構わずに来れば、
僕たちがちょっとやそっと抵抗したところで、
速いか遅いか程度の差にしかならないでしょう
どうせなら部屋を思いっきり汚しておこう、
そう僕は思います
片付ける人の苦労を少しでも増やすために
それから二週間が過ぎます
397: 1 2012/08/01(水) 10:50:19.65 ID:o8xWRF6G0
その日、喫茶店で本を読んでいると、
自分の名前が呼ばれたような気がしました
もちろん、”くもりぞら”ではない方の
顔を上げると、店員が僕の顔を覗き込んで、
「やっほー」と手を振っていました
同学部の先輩、顔を合わせれば
挨拶はする程度の仲の人です
しばらく、スクリプトに従ったような
様式に忠実な会話を僕らは交わしました
371: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 22:42:27.33 ID:rIGoNaRq0
不自然でない程度の時間が経つと、
先輩に気付かれないよう、そっと店を出ます
この店にくるのはもうやめにしよう、と僕は決めます
結構お気に入りの場所だったのですが、
知人がいるとなると、どうしようもありません
次の店を探さなきゃな、と溜息をついたとき
ふいに僕は体をのっとられました
遅かったじゃないか、と僕は思います
どうくるのかと自身の体の様子を見ていると、
まっすぐどこかへ向かって歩きはじめます
372: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 22:48:32.83 ID:rIGoNaRq0
これから味わうであろう痛みを想像しながら、
僕は操作に抵抗して、口を動かします
自分を殺そうとしている相手との
コミュニケーションを試みます
「二分でいいから、話を聞いてくれ」
しかし僕の体は構わず動きつづけます
「あんたにも関係のある話なんだよ」
舌は思い切り攣ったような痛みが走り
唇の端が切れて血が垂れてきます
376: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:06:14.80 ID:rIGoNaRq0
「なあ、そもそも、どうして自殺させるべき対象が、
頭にぱっと浮かんでくるんだと思う?」
慎重に言葉を選びながら、僕は言います
「俺はこれまで、六人の標的を自殺させてきた。
たぶん、お前と同じようなやり方で。
だが七人目を殺すことが出来なかった」
「そうして今、お前に命を狙われてる。
以前自分が他人にしていたことを、
今度は他人に自分がされているわけだ」
378: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:13:54.91 ID:rIGoNaRq0
「操られる側になって分かったことだが、
『人の体をのっとって操れる人がいる』
ということを前提として知らない限り、
自分が操作されている事実には、
なかなか気付けるものじゃないらしい。
「それくらい自然に感じられるんだ、
体をのっとられて動かされるってことは。
あるいは、起こっていることが不自然すぎて、
事実を受容できないのかもしれない」
「そこまではいい。しかし、ここから俺が言うのは、
証拠はないし、論理が飛躍しているし、
何より自分にとって都合がよすぎる考えだ」
379: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:20:40.79 ID:rIGoNaRq0
「でもな、仮にだ。人の体をのっとる俺たちもまた、
実に自然に、体をのっとられているんだとしたら?
俺たちは自分で考えて人を殺しているように感じているが、
実際のところ、操られているだけだったとしたら?」
そこまで言って、僕は限界を悟ります
これ以上喋ることは出来なさそうです
足が止まる様子はありませんでした
380: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:26:37.42 ID:rIGoNaRq0
辺りは薄暗くなってきていました
道路には、浴衣を着た小さな子供や
自転車を漕ぐ小学生の男の子たちや
ちょっとお洒落をした中学生のカップルなど
街の祭に向かう人がちらほら見られます
八歳と六歳くらいの兄妹が
互いに虫よけスプレーをかけあって
その匂いが僕のところに流れてきます
少し遠くから笛の音が聞こえてきます
焦げたソースの香りもしてきました
名前を呼ばれた気がしました
381: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:36:58.46 ID:rIGoNaRq0
僕の目は動きませんでしたが
視界の隅にブルーのスカートが見えました
「あの後、すぐ仕事が終わったんだよ。
それで、歩いてたら、君の姿を見つけて」
その声で、僕は相手が誰だか知ります
「ねえ」と先輩は言います、
「さっきのって、やっぱり独り言だよね?」
僕は無言で先輩の顔を見つめます
先輩は僕の口元を見て、目を丸くして、
「血、出てる」と口を指差して言います
383: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:42:50.71 ID:rIGoNaRq0
僕が何も言おうとしないのを
動揺の証と受け取ったらしい先輩は
なぜか「大丈夫だよ!」と励ましてきます
「私の友達にも、君みたいな子、いたよ。
でもそれはただの一時的な病気で、
別に特別気に病むことじゃないんだよ」
よく分かりませんが、ひとまず、
ある点において手間が省けました
僕は先輩の体をのっとり、言うことを聞かない
自分の体を地面に叩きつけます
柔道で言うところの大内刈を、
先輩の体を使って僕にかけたわけです
384: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:50:15.48 ID:rIGoNaRq0
単純な脇固めを極め、僕の動きを奪います
そのまま先輩に喋ってもらうことにします
僕の体は先輩を振り払おうとしますが
その動きは僕自身が抵抗して軽減します
「あんただって、いつかは俺たちみたいに、
どうしても殺したくない相手に出会う。
そして次の瞬間にはあんたが命を狙われるんだ。
そういう繰り返しは、もうやめにしないか?」
そう言った後、続ける言葉を考えて、
しばらくその体勢のままでいると、
いつのまにか僕の体の操作は解けていました
ここまですることはなかったのかもしれません
地面に転んだ時にぶつけた肩が痛み出します
385: 名も無き被検体774号+ 2012/07/31(火) 23:57:02.42 ID:rIGoNaRq0
僕は先輩の操作を解除しますが
先輩はじっと目を瞑ったまま、動こうとしません
何かいって離れてもらおうとしましたが
口がまったく言うことをききません
この分だと食事にまで支障をきたしそうです
もう一度先輩の体をのっとり、僕を解放します
「こんなことするつもりはなかったんだよ」
先輩は青ざめた顔で言います、
「それに、自分でも意味の分からないこと
口走っちゃったり、私、どうしたのかなあ……」
「夏ですし」と僕は言います、「そういうこともありますよ」
391: 1 2012/08/01(水) 00:34:11.99 ID:o8xWRF6G0
>>385の最後の一行はすごい勢いで忘れてくれよな! 忘れてくれよな!
386: 名も無き被検体774号+ 2012/08/01(水) 00:00:47.82 ID:+SmmHLBf0
収束が見えない
387: 名も無き被検体774号+ 2012/08/01(水) 00:02:42.29 ID:DgfHb8Lt0
いいじゃないか
ずっと楽しめるぜ
393: 名も無き被検体774号+ 2012/08/01(水) 00:38:08.64 ID:B/UX+8cL0
ところで先輩って急に出てきた?
394: 名も無き被検体774号+ 2012/08/01(水) 01:31:33.21 ID:tvkEufMn0
先輩ちょっと急だったな
402: 名も無き被検体774号+ 2012/08/01(水) 12:28:00.67 ID:OMabNcNy0
すっごく面白いです
403: 名も無き被検体774号+ 2012/08/01(水) 15:19:36.20 ID:8pTBqIqB0
追いついてしまった
421: 名も無き被検体774号+ 2012/08/02(木) 04:00:32.15 ID:q4jPAc3CO
>>10
もしかして岩手県盛岡市?
489: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 22:49:10.69 ID:Axa50L7/0
今日はここまでです、ペース遅くてすみません
それと>>421の人すごいです、確かにそこがモデルです
473: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 21:07:42.00 ID:Axa50L7/0
「ねえ、怪我してない? 大丈夫?」
先輩がそう聞いてきます
口をきくことのできない僕は、頷いて
「大丈夫」という意志を示そうとしましたが、
先輩は僕が声を出せないのを
ショックのせいだと思い込んだようです
泣きそうな顔で謝り続けて来ます
少し気の毒に感じましたが
説明の仕様がないし面倒なので
僕は先輩の体を硬直させると
その場を逃げ出しました
476: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 21:16:15.55 ID:Axa50L7/0
祭に向かう人の流れに逆らって
重たい体を引きずって僕は家に帰りました
アパートに着き、自室の鍵を開け中に入ると、
服も脱がずにベッドに体を投げ出します
部屋は蒸し暑く、体は痛みます
扇風機をつける元気さえありません
ひどく喉が渇いていましたが
体を起こして水を汲みに行くのさえ億劫でした
いろいろと面倒だなあ、と僕は思います
「ここがくもりぞらさんの家ですか」と青空が言います
477: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 21:27:37.30 ID:Axa50L7/0
僕は起き上がって声のした台所の方を見ました
冷蔵庫の照明に照らされた青空の顔が目に入ります
青空はハイボールの缶を勝手に取りだして
プルタブを引いてごくごく飲んでいます
缶から口を離すと、青空は「おいしいー」と笑います
僕は安心して再びベッドに横になります
478: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 21:36:06.45 ID:Axa50L7/0
「お久しぶりです、くもりぞらさん――っていう台詞は、
本来もう少し前に言うべきだったんですが、
なんだか私に気付いてないみたいだったんで、
ここぞとばかりに尾行させてもらいました」
僕は何か言おうとしますが、上手く喋れません
青空はロング缶をひとつ空にすると、
「反撃開始ー!」と言って部屋に入ってきます
顔はうっすら赤く、酔っ払っている様子です
479: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 21:43:10.38 ID:Axa50L7/0
僕に動く気力がないのを知ってのことか
あるいは単に酔っ払っているからか
青空は人の部屋を漁りはじめます
煙草のカートンを見つけると、青空は
「お酒を捨てられた仕返しです」と言って
ゴミ袋に放り込みます
CDや本も、ほとんど捨てられます
青空なりの基準が存在しているらしく
青空はときどき「これはよし」と言って
一部のものは、棚に戻されます
481: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 21:50:16.00 ID:Axa50L7/0
僕は青空に手招きして、身振り手振りで
コップに水を汲んでくるよう頼みました
青空は台所でコップに冷たい水を注ぐと
「ほーら水ですよー」と言いながらやってきて
ベッドに寝る僕の顔に1mくらい上から垂らします
僕は口を開けてどうにか水を飲みます
顔もベッドもびしょ濡れになりますが
少しでも水を飲めたことを僕は喜びます
482: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 22:00:45.39 ID:Axa50L7/0
「くもりぞらさん、今日は一段と元気ないですね」
ベッドに腰掛けた青空は、空き缶で僕の頭を
こつこつ叩きながら言います、「でも私は元気です」
僕は「後で見てろよ」という目線を送ります
「出て行ってもらいたそうな顔してますね」
青空は楽しそうに言います
「だから出て行ってあげません。あはは。
――それにしても、くもりぞらさん、
さっきから喋りませんね。動きませんし。
疲れてるんですか? なんかありました?」
僕が何も答えないのを見て、
「ん、まあいいや」と青空は言います
「とにかく、千載一遇のチャンスですね」
484: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 22:11:02.28 ID:Axa50L7/0
青空は僕の体を無理やり起こすと、
後ろに回って僕の首に右腕を巻き付けました
「前のやつの仕返しです」と青空は言います
以前触れたときの青空の首は冷たかったのですが
今日の青空の腕はあったかいです
あるいは僕の体が冷えているのかもしれません
「私、酔っ払いですから」、青空は僕の耳元で言います
「酔っ払いですから、これから変なこと言いますけど、
それは酔っ払いだからです。気にしないでください」
485: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 22:20:13.30 ID:Axa50L7/0
「なんで最近、いやがらせしてくれないんですか?」
青空は腕の力を緩めると、そのまま
腕を下げて、僕の胸の辺りで交差させます
「どうして体のっとってくれないんですか?
どうしてひとりになりたがってる私を
くもりぞらさんは野放しにしておくんですか?」
青空の人差し指が僕の胸をとんとん叩きます
486: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 22:27:27.47 ID:Axa50L7/0
「ちょっとさみしいじゃないですか。
さみしいのが、私は好きなんですよ。
だからそれを阻止してくださいよ。
そういうのがくもりぞらさんの役目でしょう?
青空の人差し指の動きが止まります
「それに私は、死期が近いからって慌てずに、
いつも通り過ごして死にたいと思ってるんです。
だから、それさえも邪魔してくださいよ。
なんで言わないとわからないんですか?」
487: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 22:37:17.89 ID:Axa50L7/0
青空の両手首を僕が両手でつかむと
「あ、動いた」と青空は嬉しそうに言います
酔っ払いの言うことは、話半分に聞くのが正解です
ですが、青空は「気にしないで」いてほしいらしく
そうなると僕としては、気にせざるを得ないのです
そういうのが、僕の役目らしいですから
488: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 22:44:24.19 ID:Axa50L7/0
僕は青空の手を離して、振り返って青空と向かい合い、
まず、いま喋れないのだということを説明しようと思い、
自身の口を指差した後、両人差し指で「×」を作りました
すると、青空は何を勘違いしたのか
「だめって言われるとしたくなります」と言って
僕が指差したところに自分の唇を重ねてきました
その後、僕は苦労して携帯に文章を打ち込んで
さきほどあったことを説明したのですが
青空は「はい」「はい」と半目で頷き続けた挙句
人のベッドですうすう寝息を立てて寝てしまいました
492: 名も無き被検体774号+ 2012/08/04(土) 23:00:03.44 ID:FCIETdtc0
おつおつ
青空ちゃんかわいい
500: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 03:42:13.11 ID:+hbaA628O
>>1
一瞬パンツ脱ぐか迷った
とにかく最高!
続き期待しております
503: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 10:02:03.22 ID:P3gLkbO30
青空の寝息を聞いているとこちらも眠くなってきたので、
寝ている青空の頭をくしゃくしゃやった後、ソファで眠りました
目を覚ますと、体が大分楽になっていました
僕は早口言葉をためします
「とてちてた、とてちて、とてちて、とてちてた 」
どうやらきちんと喋れるまで回復したようです
冷蔵庫からきんきんに冷えたビール缶を取り出し
へそをだして寝ている青空の頬に当てます
「つめたい」と言って青空は目を覚まします
504: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 10:11:17.27 ID:P3gLkbO30
僕は言います、「いつまで人のベッドで寝てる?」
「くもりぞらさんが喋ったー」と青空は喜びます
ビールを飲みながら「そろそろ帰れ」と言うと、
青空は眠たげな目で「いやです」と言い、
その後時計を見て「うわあ」と驚いていました
青空はベッドの上に三角座りして、
それからしばらく黙り込みました
現状について思いを巡らしているようでした
505: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 10:19:07.49 ID:P3gLkbO30
青空はベッドの上に正座して言います
「あの……さっきはべたべたしてすみません」
「おお、ちゃんと覚えてるんだな」
「あ、そっか。忘れてることにしとけばよかった」
青空は正座したまま横に倒れます
「くもりぞらさん、私もお酒欲しいです」
「そろそろ帰れ。時間が時間だ」
「時間が時間で時間ですね」
青空はそう言って一人で笑います
506: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 10:30:13.53 ID:P3gLkbO30
「しかし参ったな」と僕は言います
「お前が嫌がらせされるのが好きとなると、
嫌がらせをしないことによる嫌がらせさえも
結果的に嫌がらせになってしまって、
最終的には喜ばせてしまうことになる」
「難しいことは考えずに、普通に
いやがらせしてくれればいいんです」
「なるほど」と僕は言い、ベッドの青空の
膝の下と首の後ろに手を差し入れ
ひょいと持ち上げて玄関まで運びました
その軽さに、僕はちょっと驚きます
507: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 10:35:22.74 ID:P3gLkbO30
そのままドアを開けて外に出ると
「もういいですよ」と青空が言います
だからどうしたという感じです
僕はそのまま歩きつづけます
青空は僕を見上げて言います
「はいはい、そういう嫌がらせですか」
「屈辱的な仕打ちというやつだ」
「私の足の状態に気づいてたんですか?」
「さあな」
「くもりぞらさんは発声器官ですけど、
私は足の方をやられたんですよね」
508: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 10:41:13.22 ID:P3gLkbO30
「というわけは、抵抗したんだな?」
「ええ。だって私、殺されるなら、
くもりぞらさんにって決めてますし」
「次に俺が何を言うか分かるだろう?」
「『じゃあ殺してやらない』、ですよね。
だったらせめて、私はくもりぞらさんより先に、
ここからいなくなりたいなあ」
「そうか。じゃあ俺はお前が死ぬまで死なない」
「じゃあ私はくもりぞらさんが死ぬまで死なない」
そういうやり取りを交わした後で、
僕はちょっと恥ずかしくなってきます
これじゃあまるで永遠を誓い合ってるみたいじゃないか
540: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 22:38:55.45 ID:49/DQkd80
今までのあらすじ
・多分、>>508は、
「そうか。じゃあ俺は、俺より先にお前を死なせない」
「じゃあ私は、私より先にくもりぞらさんを死なせない」
と言わせたかったんじゃなかろうか、俺は。
509: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 10:43:59.50 ID:P3gLkbO30
もちろん、物事はそんなに
思い通りにいくものではありません
それが気休めに過ぎないことは
お互いにわかっているし、経験上、
死ぬということがそんなに優しくて
綺麗なものではないことを知っています
515: 名も無き被検体774号+ 2012/08/05(日) 13:20:31.83 ID:/h8JKBnO0
げんふうけい節全開だな
荒んだ和みの極地というか
521: 1 2012/08/05(日) 22:22:31.78 ID:P3gLkbO30
まーた論理破綻してるよ俺は!
526: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 00:25:50.51 ID:/VJlEXuL0
誰か…げんふうけいさんのまとめお願い…!!
527: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 00:36:36.25 ID:Kfqz6D0M0
>>526
げんふうけいでググってみよう
536: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 18:46:39.83 ID:V/8kFG2S0
これは・・・
今までのssと違って面白いな
541: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 22:46:44.39 ID:49/DQkd80
翌日、青空をいつもの公園に呼び出そうとした僕は
人の体をのっとる力を失ったことに気付きました
ですが、結局青空は公園に来ました
「どうせ呼ばれるだろうと思ったから、
こっちから来てやったんです」
青空はしたり顔でそう言います
僕は「やるじゃないか」と言って
青空の頭を撫でてやりました
青空は頭を両手で押さえて
「子供扱いしないでください」とむくれます
545: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 22:54:30.79 ID:49/DQkd80
「お前はいつも通り過ごして死にたいらしいな」
「だって、せっかく死ぬ覚悟が固まってても、
ふとした拍子に幸せな思いをしちゃったら、
苦労して固めた覚悟が崩れちゃいますからね。
ただでさえ、命が薄らいできたせいか、
異様に感動しやすくなっちゃってるんです。
気をつけないとすぐ幸せになっちゃいますよ。
感傷的になるなのは避けたいんです」
そこで僕は、センチメンタル・ジャーニーを提案します
どうにかして青空を感傷的にしてやろうというわけです
547: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 23:07:33.15 ID:49/DQkd80
青空は窓からの風を心地よさそうに浴びて
小さな声で何かを歌っていました
こっちには聞こえていないと思っているのでしょう
「ままー じゃすきーらめーん」
それは僕もよく知っている曲でした
運転席でハンドルを握る僕は
一緒に唄おうとしたのですが
やっぱりやめておくことにしました
青空の声をきいていたいと思ったのです
趣味が酒と音楽だけというだけあって
さすがに歌い方というのを心得ていました
選曲も中々状況にマッチしています
548: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 23:14:31.53 ID:49/DQkd80
屋台でホットドッグとクレープを注文し
ベンチに並んで座ってそれらを食べます
ひどく古いコカコーラの赤いベンチで
塗装は半分以上剥げてしまっています
青空はサンダルを脱いで横向きに座り
素足を僕の膝の上に乗っけてきます
「ずっと思ってたんですけど、
私、くもりぞらさんについて、
ほとんど何も知らないんですよね」
553: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 23:28:34.41 ID:49/DQkd80
「たとえば、私は音楽が好きです。
それはくもりぞらさんも知ってるでしょう?」
「ああ。見た。悪くない趣味だと思う」
「くもりぞらさんに褒められた!」
「こういう問題に関してはフェアなんだ、俺は」
「……ええと、それで、くもりぞらさんは、
何か好きなこととかあるんですか?」
「それは、うんと好きなもののことか?
それとも、ただ好きなもののことか?」
「うんと好きなもの」青空は僕の発言の
意図が分かったらしく、にんまり笑います
554: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 23:32:46.11 ID:49/DQkd80
「俺は、ゆっくり回転する物が好きだ」
「……うーん、説明を求めます」
「メリーゴーランドとか、観覧車とか、
オルゴールとか、時計とか、ひまわりとか」
「地球とか、月とか、太陽とか?」
「ああ。そうだな。天体も好きだ」
「私と、どっちが好きですか?」
「……ん?」
「ゆっくり回転する物と私」
「前者だな」
「……じゃあ、ゆっくり回転する私」
青空は立ち上がり、ゆっくり回りはじめます
558: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 23:46:23.49 ID:49/DQkd80
僕はゆっくり回転する物が好きなので
ベンチから身を乗り出して青空を捕まえ、
再びベンチに座り、膝の上に青空をおいて
後ろから両手をまわして確保します
ゆっくり回転する物が好きなわけであって
青空と密着していると異様なほど安心することに
最近気づいたというわけではありません
「こんなに効果あると思いませんでした……」
青空はちょっと動揺した様子です
559: 名も無き被検体774号+ 2012/08/06(月) 23:56:47.82 ID:49/DQkd80
自販機で買ったポカリスエットを
保冷剤代わりにして体を冷やしながら
僕と青空は駐車場に戻りました
晴れ渡った空の向こうには、積乱雲が見えました
街路樹に蝉がとまって鳴いています
この蝉も僕たちも、余命は同じくらいでしょう
どこかの家から線香の匂いが漂ってきます
よく日焼けした子供たちが、釣竿を持って
駆け抜けていき、それに合わせて風鈴が揺れます
584: 名も無き被検体774号+ 2012/08/07(火) 20:46:46.08 ID:jBLcJe6J0
小説って面白いもんだな。
はじめてわかったよ。
585: 名も無き被検体774号+ 2012/08/07(火) 22:37:01.49 ID:jBLcJe6J0
映画化しよう
主人公 松山ケンイチ
とか
587: 名も無き被検体774号+ 2012/08/07(火) 23:46:45.59 ID:Td4raoxS0
はあ、面白すぎてつらい
保守
598: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 04:08:49.14 ID:3R3B0C5Z0
俺の青空たんは
吉高由里子で決まり!!
599: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 04:18:46.05 ID:KnZYUgKJO
>>598
あー、ぽいかも
とくにイメージしてなかったけど
しっくりきたわw
678: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 00:26:00.91 ID:KxOZjPlV0 BE:5461843788-2BP(0)
>>598
ないわw
602: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 07:11:36.04 ID:9x1X+oX60
吉高由里子好きなんだな、みんな。
605: 忍法帖【Lv=8,xxxP】 2012/08/08(水) 15:10:52.94 ID:j/y37PYtO
吉高由里子はぴったりだけど年齢がなあああああ
607: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 17:23:57.44 ID:9x1X+oX60
じゃあだれがいい? 604 605
610: 忍法帖【Lv=8,xxxP】 2012/08/08(水) 19:14:37.67 ID:j/y37PYtO
川島海荷。
611: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 19:21:30.22 ID:gRxAZzyX0
>>610
ないなwww
615: 忍法帖【Lv=8,xxxP】 2012/08/08(水) 20:00:55.80 ID:j/y37PYtO
>>611ええwwww
620: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 20:46:40.17 ID:gRxAZzyX0
モデルだが中条あやみを推す
保守がてらに
624: 1 2012/08/08(水) 22:36:27.35 ID:p/vEXlSh0
今までのあらすじ
・松山と吉高とかどこのGANTZだよ!
625: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:42:59.20 ID:p/vEXlSh0
当てもなく車を走らせました
途中で寄ったCDショップで青空が買った
「ラバーソウル」がカーステレオから流れています
山道に入ると、急カーブが多くなり、
貧弱な青空は左カーブに入るたびに
「わー」と運転席に倒れ込んできます
いつの間にかベルトを外しているのです
一度は間違えて、右カーブなのに
運転席方向に倒れてきました
「さて」と青空が切り出します
「いまから、身勝手な話をします」
626: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:47:08.41 ID:p/vEXlSh0
「私、これまでに、八人殺したじゃないですか。
そのことを後悔してはいるんです。
今思うと、あの人たちが具体的に
どんな悪さをしたのか私は知らないし、
仮に悪い人たちだったとしても、
私個人は全く恨みもなかったんです。
なんであんなことしちゃったんでしょう?
あの中にくもりぞらさんがいたとしても、
当時の私だったら殺しちゃったと思います。
そう考えると、やっぱりとんでもないことを
やらかしちゃったんでしょうね、私は。
……でもですね、九人目でやめて以降、
私の身に起きた一連の出来事については、
ひそかに、気に入ってさえいるんです。
それと引き換えにこれから起こる、
さみしい事態も考慮した上で、ですよ」
627: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 22:54:26.33 ID:p/vEXlSh0
「そのことについてなんだが――」
僕は以前思いついた仮説を青空に話します
「なるほど」と青空は言います
「確かに私も、疑問には思ってたんですよ。
そもそもどうして、標的に関する情報が
自動的に頭に浮かんでくるのか」
「他にどうとでも利用できそうなその能力を、
標的の殺害だけに注ぎ込もうとしてしまうのか」
「そうそう。今考えると、妙ですよね」
630: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 23:02:12.45 ID:p/vEXlSh0
「でも」青空はきっぱり言います、
「証拠はどこにもないんでしょう?
私たちを操ってる人がいるっていう」
「そうだけどな、そんなこと言い出たら、
極端な話、俺たちの他殺にも証拠なんてない。
俺たちは自殺させたと思い込んでるだけで、
実際は、彼らがきちんと彼らの意志で
そうしていたのかもしれないんだ」
「そして何より」と僕は言います、
「どんな理由であれ、青空が自分の意志で
人を殺したりするとは思えないんだ」
「八人殺しました」と青空は言います
「ナイフは人を殺さない。ナイフで人を殺すんだ。
どっかの誰かが、青空で人を殺したのさ」
631: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 23:08:23.06 ID:p/vEXlSh0
「都合よく考えようぜ」と僕は続けます、
「俺たちはおそらく、人を殺したっていうことから
気を逸らそうとするあまり、逆に必要以上に
責任を負おうとしてしまっていた部分がある。
だが、特にならない殺人をする理由がどこにあった?
いくらでも自分に利益をもたらせられるはずの
この能力を、どうして活用しようとしなかった?
おそらくこの能力には制限がかかっていたんだ。
俺たちが向こうの意にそぐわない行動をしないように」
632: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 23:13:36.55 ID:p/vEXlSh0
「うーん、もしそうだとしたら、嬉しいんですけど」
青空はうつむいて、少し間を置きます
「でも、なんにせよ私は、だめですよ。
八人殺したおかげでくもりぞらさんに会えた、
あーよかったって考えてるようなやつですから」
「違う、八人で止めたから俺と会えたんだ」
青空は困ったような笑顔を浮かべます
「確かに、決してないとは言い切れない話です。
ですが、それでも犯人が確定するまでは、
ひとまず私がその責任を負うべきだと思うんですよ」
「素晴らしい心がけだな。犯人が分かるまでは
ひとまず殺されておこうってわけか?」
「だって、しかたないじゃないですか」
633: 名も無き被検体774号+ 2012/08/08(水) 23:16:36.41 ID:b1m5Vjvq0
青空ちゃんになって恥ずかしいことされたい・・・
637: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 00:30:40.41 ID:tw7IGCwp0
気分が落ち込んでいた自分に最高のスレ
支援
653: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:27:56.04 ID:GGIh9Ptr0
「ひだり」と青空が突然言います
言われなくても僕だって気付いています
車を停めて、外に出ます
視界の上半分が青い空と白い雲なのに対し、
下半分は黄色と緑で埋め尽くされています
大きな白い風車が、いくつか回っています
「ひまわりもあるし、風車も回ってるし、
とってもくもりぞらさん的空間ですね」
青空が僕の隣で言います
654: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:32:56.91 ID:GGIh9Ptr0
こんな光景を、昔見たことがあるような気がしました
制服の女の子とスーツの男
妙にちぐはぐな印象を与える二人が
並んでひまわり畑を見下ろしているのです
もちろん実際はそんなものを見たことはなく
たぶん単純に、その光景があまりにも
僕の好みに適合していただけなのでしょう
655: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:42:06.52 ID:GGIh9Ptr0
青空は指折り数えます
「んーと、メリーゴーランド、観覧車、
オルゴール、時計、ひまわり、天体」
そして、「ですよね?」という目をこちらに向けます
「そうだ」と僕はうなずきます
「それと、ゆっくり回転する私」
「ああ。別に回転しなくてもいいけどな」
青空は僕の目を見たまま固まります
「おー……不意打ちですね」
「こういうのは逆に困るだろう?」
「困ってます。照れてます」
まわんなくてよかったのかー、と青空はひとりごちます
656: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 10:51:44.02 ID:GGIh9Ptr0
「ひまわりは達成したので、次にいきましょう」
「全部回る気なのか?」と僕は訊きます
「そうです。ゆっくり回るものを、
ひとつずつ、ゆっくり回りましょう」
それは確かに、理想的な過ごし方でした
「お前はそれでいいのか?」と僕はたずねます
「それがいいんですよ。好きなものばかり見て、
くもりぞらさんは生に執着しちゃえばいいんです。
死ぬのいやだーって私に泣き付けばいいんです」
「なるほどな」
658: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 11:00:23.60 ID:GGIh9Ptr0
からかうように、青空が軽く体当たりしてきます
「何だか、くもりぞらさんらしくないですね。
決定権は、いつでもあなたにあるんですよ?
したいと思ったことをすればいいじゃないですか」
「いや。もう俺も、あのうさんくさい力は失ったんだ。
もう青空を操ることはできない。良かったな」
「そんなこと問題になりませんよ、私、
あなたの言いなりになるの、癖になっちゃってますから」
「そうか」僕は納得します、「まわれ」
青空はその場でくるくる回りはじめます
659: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 12:47:50.52 ID:Wubqar3W0
そこらの小説より面白い。
662: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 14:29:33.75 ID:BojKzBTG0
空気感が好き
664: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 14:40:59.18 ID:K7vqqGWD0
ちなみにあおぞらは橋本愛で想像
668: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 17:42:50.23 ID:vfMwXGUw0
>>664
橋本愛ぴったり
くもりぞらさんは瑛太
669: 名も無き被検体774号+ 2012/08/09(木) 18:13:35.43 ID:F/s6nuWEO
橋本愛って実写版アナザーの子か
684: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 04:17:02.57 ID:JWJ1JzxFO
続き気になるー!
ほすっ!
695: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 18:13:56.45 ID:wlySJbwn0
保守
698: 1 2012/08/10(金) 19:46:59.48 ID:Z/us+aeL0
今までのあらすじ
・保守ありがとうございました
・今日こそ完結させます
700: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 20:01:40.87 ID:sIQvmOhP0
おおおおお期待しておりますでありますっ
701: 1 2012/08/10(金) 20:03:21.21 ID:Z/us+aeL0
二時間ほどで、青空の言うデパートに到着します
屋上遊園地などという時代錯誤的なものが
未だ存在していたことに驚きました
外装も城みたいで、大時代的です
「未だっていうか、新しく出来たんですけどね。
時代錯誤がむしろ格好良いみたいな
最近の風潮に合わせて作られたらしいです」
ここにはくもりぞらさんの好きなものが
いっぱいあるんです、と青空は言います
地下駐車場に車を停めると、店内に入ります
天井は呆れるほど高く、冷房ががんがんきいています
自分が縮んだような気になる場所でした
まだ夢が売っていた時代のデパートみたいです
702: 1 2012/08/10(金) 20:09:58.31 ID:Z/us+aeL0
良い雰囲気の雑貨屋を見かけると
青空は僕を置いて中に入っていきました
ついていこうとすると、追い払われます
「くもりぞらさんはメロンでも見ててください」
青空なりにやりたいことがあるようです
仕方がないのであたりをうろつきます
デパートに来るのは久しぶりでした
おかげで、子供の頃の記憶が
そこにそのまま残っている気がしました
もちろんこの場所を訪れたことが
あるわけではないのですが
703: 1 2012/08/10(金) 20:14:37.07 ID:Z/us+aeL0
エントランス付近のベンチに座って青空を待ちます
行き交う人々は、みんな幸せそうに見えます
実際、ここを訪れるような人は、ある程度裕福で、
「余計なこと」に金を割く余裕のある人たちです
子連れの客が多く、どこの子供も、
絵本の中から出てきたような感じです
立派な服、整った顔立ち、綺麗な体つき
彼らの将来を考えて、自分の現状と比較し、
僕は勝手に落胆して溜息をつきます
704: 1 2012/08/10(金) 20:19:48.10 ID:Z/us+aeL0
いつの間にか青空が脇に立っています
「さ、いきましょう」と青空は言います
何をしていたのかは聞かずにおきます
エレベーターが混んでいる様子だったので
いつも見るものより数段長いエスカレーターに乗ると
青空は壁に貼られた注意書きを指差しました
「黄色い線の内側では手を繋いでください、ですって」
「お子様と手を繋いで黄色い線の内側に、な」
「似たようなものです。私、年下ですから。
ほら、黄色い線の内側ですよ」青空は手を差し出します
僕はその白くて細い指をそっと握ります
すかさず青空がぎゅっと握り返してきます
706: 1 2012/08/10(金) 20:28:38.01 ID:Z/us+aeL0
「あれみたいですね、恋人みたいです」
僕の顔を見上げて青空が笑みを浮かべます
「これだけじゃあ兄妹と似たようなもんだ」
「傍から見ても、そう見えますかね?」
「ああ。どう見ても仲の良い兄妹だ」
「これでも?」青空は自分の指を
僕の指の間に入れて、握り直します
「おいおい」と言いつつも、
僕はその手をしっかり握り返します
707: 1 2012/08/10(金) 20:35:51.94 ID:Z/us+aeL0
僕らが屋上遊園地に到着した途端
場内に大きな音楽が流れ始めます
真上にある時計台からの音のようです
「からくり時計ですね」と青空が言います
「10万人目の来場者になったかと思いました」
「雨だ」と僕は手を差し出して言います
今はまだ弱いですが、徐々に強くなる類の降り方です
「雨ですね。じゃ、さっさと乗っちゃいましょう」
メリーゴーランドと観覧車を指差して青空は言います
濡れた石畳が遊具のカラフルな光を反射して
屋上はクリスマスみたいなことになっています
708: 1 2012/08/10(金) 20:40:58.97 ID:Z/us+aeL0
メリーゴーランドは、よくある子供騙しの
チープなものではなく、凝った造形のものでした
念のために僕は言っておきます
「俺は見るのが好きなわけで、
別に乗りたいわけじゃないんだよ」
しかし青空は二人分のチケットを購入し、
結局僕たちは馬車に向かい合って座ります
合図が鳴り、馬車が動き出します
青空は身を乗り出して、僕に言います
「『とても酷いやり方』でいつか殺す、
くもりぞらさんはそう言ったわけですけど」
「言ったなあ、そういえば」
「どんなやり方なんです?」
709: 1 2012/08/10(金) 20:46:01.84 ID:Z/us+aeL0
少し考えてから、僕は答えます
「そうだな。まず……簡単に殺しはしない。
時間をたっぷりかけて、じわじわ殺すんだ。
死ぬときに未練や後悔が残るように、
できるだけ生に対する執着が増すような、
そういう暮らしを、長期に渡って送らせる」
「時間をたっぷりって、いつごろ殺すんです?」
「幸福慣れするのに時間がかかりそうな
相手だからな、慎重にいく必要がある。
十年、二十年、場合によっては、百年でも」
「私は時間かかりますよー」、青空が得意気に言います
710: 1 2012/08/10(金) 20:55:30.22 ID:Z/us+aeL0
想像通り、雨は次第に強くなっていきます
屋上の客はどんどん減っていきます
観覧車に乗り込み、半分くらいの高さまで
昇ったところで、青空はぽつりと言いました
「百年かけて、殺されたかったなあ」
「俺もそうするつもりでいたさ」
「でも、難しそうですね」
「今となっては、明日も知れぬ身だからな」
「なんとかして、逃げられないものですかね?」
「俺もそれをずっと考えてる。でも向こうは、
その気になりさえすれば、何でも出来てしまう」
「うーん……」と青空は俯いて考えます
712: 1 2012/08/10(金) 21:00:13.21 ID:Z/us+aeL0
「こんなのはどうでしょう?」
観覧車が三分の二くらいの高さまで
来たところで、青空は言います
「くもりぞらさん、標的を自殺させる上で、
定められた手順を言ってみてください」
僕は頭の中の文章を読み上げます、
①その人の体をのっとる
②辛そうに振る舞う
③身の回りを綺麗にする
④遺書を書く
⑤死ぬ
「そう。そして、一つ目を阻止することは困難です。
でも、二つ目、三つ目、四つ目を、
全身全霊で邪魔したらどうなるんでしょう?」
714: 1 2012/08/10(金) 21:49:07.12 ID:Z/us+aeL0
「たとえばですね、②を妨害するとして、
自殺する理由が見当たらないどころか、
絶対に自殺するわけがないって思われるくらい、
幸せになっちゃえばいいんじゃないでしょうか」
「まあ確かに、向こうには、周りに自然な自殺だと
思わせなければらない義務があるからな」
「そうです。くもりぞらさんの幸せはなんですか?」
「今まさにってところだな。青空といること」
青空は頬をかいて目を逸らします
「えーと……いや、すごく嬉しいんですけど、
こんなことで満足しないでください。
まだまだこれからじゃないですか。
こんな陳腐なことは言いたくないんですが、
生きてればもっと楽しいことが沢山ありますよ」
716: 1 2012/08/10(金) 22:07:12.93 ID:Z/us+aeL0
僕らの観覧車が一番高くなる瞬間が訪れます
その高さからは、雨に濡れた街が一望できます
窓にはりつくように下を見ながら、青空は言います
「そう。私はくもりぞらさんと同じ大学へ行くんですよ。
がんばって勉強して、くもりぞらさんの後輩になるんです」
「だいぶ頑張らないといけないな」僕は苦笑いします
「大丈夫ですよ。くもりぞらさんが教えてくれますから。
そうしてまた、一緒にカフェに行って勉強したり、
映画を観に行ったり、お酒を飲んだりするんです。
毎年、私たちに殺された人たちのお墓参りにいって、
あんまり派手な生き方はしないようにして、けれども、
必要以上に卑屈にはならず、強かに生きていくんです。
そう、明るい日陰で生きていくんですよ。
そのときは、今までみたいな話し方をやめて、
お互いとっても素直に、昔のことを話すんです。たとえば――」
726: 1 2012/08/10(金) 22:51:02.70 ID:Z/us+aeL0
「たとえば、実は俺が、青空のことを
好きにならないように必死に努力したが、
結局は無駄に終わったこととか」
青空は目を丸くして僕の顔を見ます
「そういうことだろ?」と僕は念を押します
「……そうです。そういうことを話すんです。
課外が終わって会いに行ったとき、
私がわざわざ髪を切って、お洒落をして、
実はとってもはしゃいでいたこととか」
「アパートに青空があらわれたとき、
どうしてか、妙にほっとしてしまったこととか」
「足の心配をしてくれて抱っこしてもらったとき、
本当は皆に見せて回りたいくらいだったこととか」
「酔っ払った青空がとんでもなく可愛かったこととか」
「キスの件は、わざと勘違いしたふりをしたこととか」
727: 1 2012/08/10(金) 23:05:07.70 ID:Z/us+aeL0
びしょ濡れで店内に戻った僕らは
無闇にお互いを叩いて笑います
思えば、この夏は、僕も青空も
しょっちゅうずぶ濡れになりました
それでも、雨に濡れるのは初めてでした
あたたかいコーヒーを飲み終える頃
デパートに閉店を知らせる音楽が流れ始めます
外に出た僕らは、夜の雨の街を、
傘も差さずに歩きつづけます
青空は「雨にぬれても」を口ずさみます
見込みのない二人は、いつまでも
手遅れの幸せについて語ります
728: 1 2012/08/10(金) 23:12:45.41 ID:Z/us+aeL0
雨はかなり弱まってきていました
青空に言われて空を見上げると
ぼんやりした月が浮かんでいました
「残念ながら、星は見えませんけど」
青空は鞄から何かを取りだします
僕には、梱包を剥がす前から
それが何なのか分かります
「もちろん、オルゴールです」
青空はそれを僕に手渡します
グランドピアノの形を模した
シリンダーオルゴールです
「これで、くもりぞらさんの好きなものは、
ひとまず全部そろいましたね」
曲を流してみてください、と青空は言います
729: 1 2012/08/10(金) 23:22:11.92 ID:Z/us+aeL0
それは本当に突然のことでした
ぜんまいを巻いている最中
不意にふわりと、僕の心の曇りが晴れます
僕を直接殺そうとしていた意思とは別の
もっと上の存在からの操作から逃れ、
自由になることができたのでしょう
途端、押さえつけられ、弱められていた
僕の人間的感覚が開放されます
目の前の少女が、突然、
かみさまみたいに見えてきます
ああ、そうだったのか、と僕は思い、
何も言わず、僕は青空を抱き締めます
青空は「うわっ」と驚きつつも
すぐに抱きしめ返してくれます
そうだよな、と僕は思います
これくらいの気持ちが溢れていて当然だったんだ
815: 名も無き被検体774号+ 2012/08/14(火) 07:44:57.28 ID:SzU9P+tEO
>>729
この辺がうまく解釈出来ないんだがどゆ意味?
816: 名も無き被検体774号+ 2012/08/14(火) 09:13:23.04 ID:0CKu2ZIB0
>>815
解放されたってことじゃないかな?
730: 1 2012/08/10(金) 23:30:33.32 ID:Z/us+aeL0
どうにかして青空を、この糞みたいな
くだらない繰り返しから抜け出させてあげよう、
こんな卑屈で先のない幸せにすがらなくとも
もっと心の底から笑えるようにしてあげよう、
オルゴールが終わるころには、
僕はそう決意していました
でも結局、その日が僕らにとって
最後の日となりました
731: 1 2012/08/10(金) 23:34:20.50 ID:Z/us+aeL0
さて、
732: 1 2012/08/10(金) 23:35:07.29 ID:Z/us+aeL0
急に感じるかもしれませんが、
これでお話は大体お終いです
733: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 23:35:26.32 ID:PM6G4KQD0
mjd!?
734: 1 2012/08/10(金) 23:35:47.64 ID:Z/us+aeL0
八月のよく晴れた日に出会ったのは、
神経質そうな目をした女の子でした
735: 1 2012/08/10(金) 23:36:24.99 ID:Z/us+aeL0
華奢で色白で、視線は常に下を向いていて、
笑い方がとっても控えめな女の子でした
736: 1 2012/08/10(金) 23:37:33.83 ID:Z/us+aeL0
最後に交わした会話は、僕と青空だけの秘密です。
737: 1 2012/08/10(金) 23:38:10.95 ID:Z/us+aeL0
おしまい。
738: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 23:39:47.80 ID:ZVmED/nAO
わー!終わりなの?
オルゴールから流れた曲はなんだったのかな?ちょっと気になる
748: 1 2012/08/10(金) 23:59:54.80 ID:Z/us+aeL0
>>738
よっぽど書こうかと思ったんですが、
チキンなので書かずにおきました!
740: 【Dnews4viptasu1327080131130483】 2012/08/10(金) 23:40:36.54 ID:/S9cUOOe0
おつ
面白かったよ!
741: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 23:42:39.41 ID:CxNq8CeT0
面白かった
久方ぶりにいい話読めたよ
GJ
742: 1 2012/08/10(金) 23:44:56.98 ID:Z/us+aeL0
744: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 23:49:50.89 ID:PM6G4KQD0
二人がどうなったかまで書かないのがげんふうけいの人らしいな
意図や意味も何となくわかるけどちょっと最後は急すぎたかな?w
とにかく長い事お疲れ様でした 面白かったよ
745: 名も無き被検体774号+ 2012/08/10(金) 23:50:05.73 ID:uJT79wvX0
かなり面白かった!
幸せな時間をありがとうございました
749: 名も無き被検体774号+ 2012/08/11(土) 00:00:28.18 ID:X0JNY1LQ0
乙です
今回もおもろかったわ
応援してるぜげんふうけいさん
751: 名も無き被検体774号+ 2012/08/11(土) 00:04:54.12 ID:3UK/TLoi0
とっても面白かったです!
素敵な時間をありがとう
769: 名も無き被検体774号+ 2012/08/11(土) 01:16:42.04 ID:ynx1XFxV0
乙!
面白かった。
過去作も読ませてもらいますー
801: 名も無き被検体774号+ 2012/08/12(日) 12:08:18.73 ID:i6+2Fxey0
僕"ら" にとって最後の日となりました
というから、結局青空とくもりぞらも二人とも死んでしまったんだと思う
それが幸せだったのかそうでなかったと感じるのは読み手次第
書籍化しても売れそうだな
817: 忍法帖【Lv=4,xxxP】 2012/08/14(火) 11:17:11.20 ID:fCncWnBQ0
>>801いや、最“期”じゃないから違うんじゃ。
795 名も無き被検体774号+ 2012/08/12(日) 02:08:54.86 ID:TuTuiviW0
追いついた!
疑問なんだが「上書き」って自分で自分を操作すること?
青空は力を失ってるのになんで抵抗できたの?
797 名も無き被検体774号+ 2012/08/12(日) 04:07:23.54 ID:oG3jr2vF0
>>795
抵抗と能力は違うんじゃないかな
上書きは、動いてる体に更に動けって脳から命令出す概念じゃない?
それはともかく青空とくもりぞらの素直じゃない所が可愛すぎる
また名前隠して作品かいてほしいな
799 名も無き被検体774号+ 2012/08/12(日) 08:05:16.29 ID:KEjAXRvi0
>傍から見ても、そう見えますかね?
>明るい日陰で生きていくんですよ
>心の曇りが晴れます
こういう風に、前半で使われた言葉が
後半で意味を変えて出てくるとにやにやしちゃう
二人には明るい日陰で幸せになって欲しかったなあ
807 名も無き被検体774号+ 2012/08/14(火) 00:45:16.61 ID:2mHh+Dt70
私のイメージの青空ちゃん
閲覧注意
810 名も無き被検体774号+ 2012/08/14(火) 02:15:03.44 ID:+adfDgwG0
ばかやろー青空はきっとこんな感じだよ
812 名も無き被検体774号+ 2012/08/14(火) 03:13:54.47 ID:5TJBw/tc0
>>807
>>810
どっちもすき
813 名も無き被検体774号+ 2012/08/14(火) 03:31:25.42 ID:xnlxQVyL0
俺は>807が好きでイメージに近いが、もっと華奢な感じ。
818 名も無き被検体774号+ 2012/08/14(火) 11:27:31.09 ID:i0v6EGpV0
操られていた僕らの最後ってことだと解釈した。
804: 名も無き被検体774号+ 2012/08/13(月) 09:03:28.93 ID:VQm9c0/d0
毎回思うけど、本当に描写力ある人だよな
それでいて読みやすいってのがまたすごい
この人のSSの書き方はちょっとした革命じゃないか
772 名も無き被検体774号+ 2012/08/11(土) 01:43:18.93 ID:pjGalGJl0
これアレンジしようと思ってもこれ以上の作品にはなりはしないな・・・
素晴らしいものをありがとう
788 名も無き被検体774号+ 2012/08/11(土) 16:57:30.97 ID:j8SKGxAJ0
マジ乙!!
初めて読んでたけど、自分は上遠野さんが好きで少し同じ感じで読んでた。
比べられるの好まないなら済まない。
でも今晩の肴は1のサイトと決まったな。
1001 以下、おすすめリンクをお送りします 2012/01/01(日) 12:00:00.00 ID:BotTiSOkU
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でも807の絵が下手すぎて萎えた
つか青空さんが橋本愛とかやめてくれ
絵も実写も想像するのは自由だがいちいちうるせえんだよ