テレビ「…………次のニュースです」

テレビ「本日開催された議会で、与党より提出された『安楽死制度』が3分の2以上の可決を持って承認されました」

テレビ「安楽死制度は、病気が手の施し様のないほど進行してしまった患者を対象にしております」

テレビ「この制度の実施は、人としての尊厳を保ったまま安らかに死を迎えることを可能にするだけでなく、ドナーとして、生きる望みが有る者にその命を繋げる手助けとなります」

テレビ「申請には厳重な検査、調査が必要であり、条件にそぐわない者は却下されますが、難しいことは何一つありません」

テレビ「細かい申請方法につきまして……｣ﾌﾞﾁｯ

老夫「…………嫌な世の中になったものだ」

老父「おーい、婆さんや。飯はまだかね？」

老婆「はいはい、今出来ますよ」

マジで安楽死導入したほうがいいんじゃないかな

生きる屍

老父「全く、何が安楽死だ」

老婆「あら、なんですかお爺さん。安楽死？」

老父「いよいよ呆けたか婆さん。国が人殺しを奨励しとるんだよ」

老婆「あらまあ、それは……大変ですねぇ。そこのお醤油取ってもらえる？」

老父「婆さん。それは塩だ」

老婆「あらまあ、近頃は目もよく見えなくなってきたものですから……」

老父「新しい眼鏡でも買いにいこうか？」

老婆「結構ですよ、近くに寄れば新聞だって読めます。あんまり預金もないんですから、無駄遣いは出来ませんよ」

手の施しようがない病状の人間をドナーになんか使えんのか？無理じゃね？

テレビ「…………次のニュースです」

テレビ「安楽死を導入した都内の病院が、安楽死の募集をかけたところ、4500人の応募がありました」

テレビ「厳重な審査の下、1200人が申請を受理されました」

テレビ「これを受け野党は……｣ﾌﾞﾁｯ

老人「馬鹿馬鹿しい。婆さんやお茶を」

老婆「はいはい、今お持ちしますから……ね？」

老人「婆さん？どうした？」

老婆「いえ、少しフラついただけですから。さ、玉露ですよ」

医者「ハンセン病ですね」

老父「ハンセン……？それって」

医者「結核の一種です。ジアフェニルスルホン、リファンピシン、クロファジミンの併用療法が主流ですね」

老父「いえその、妻は治るんでしょうか？」

医者「ご心配なく、昔は治療法も無く不治の病と呼ばれることもありましたが、今では特効薬も開発されています」

老父「……そうですか」

医者「ただし、入院はしてもらいます。えー入院費用につきましては受付の方で……」

数十年後はお前らも同じよ

(´；ω；`)

テレビ「……次のニュースです」

テレビ「先日実施された安楽死制度の改定案が与党より提出されました」

テレビ「内容は、対象となる患者の条件の緩和と、該当する医療機関への支援について」

テレビ「野党はこれに対し否定的な姿勢を貫いております」

テレビ「次のニュースです……｣ﾌﾞﾁｯ

老父「…………婆さんや、お茶を」

老父「…………婆さんや、お茶を」

老父「……淋しいものだ、国も家も」

(あ、これ泣く奴だ)

老父「ガ…ガンツ？」

老父「婆さんや、体調はどうだね？」

老婆「あら、お爺さん。私は元気です……ｹﾎｯｹﾎｯ」

老父「言わんこっちゃない。婆さんが居ないと家が広くて敵わんわ。早く良くなっておくれ」

老婆「大丈夫ですよ、後藤先生とっても優しいんですから」

老父「近頃は物騒な世の中になってきてるからなぁ……ゆっくり休むんだぞ？」

老婆「わかってますよ、お爺さん。あ、お茶淹れましょうか」

ｶﾞﾀﾝｺﾞﾄﾝｶﾞﾀﾝｺﾞﾄﾝ

若者「はははは、でさー｣ｼｬｶｼｬｶ

年寄り「…………｣ﾖﾛﾖﾛ

老夫「大丈夫ですか？」

年寄り「え……ええ｣ﾖﾛﾖﾛ

老夫「……おい君」

若者「……あ？なんだよオッサン、うぜえんだよ」

老父「……ｺﾞﾎﾝ。ここは優先席じゃないか。目の前にお年寄りが居たら変わってあげるのが礼儀じゃないかね？」

若者「はあっ？知らねえよ！第一俺たちの働いた金で生活してるような奴等より、汗水働いてる俺の方があんた達よりよっぽど偉いね!！」

老夫「なっ！」

年寄り「もう大丈夫ですよ……確かにこの子の言う通りですわ」

老夫「そういう問題ではないでしょう」

若者「さっきからうっせえんだよ！！電車内は静かにしろよ！！」

老夫「……婆さんや、どう思う？」

老婆「お爺さんは間違ってませんよ」

老夫「そうかね……婆さんや、少し痩せたか？」

老婆「そうですか？多分、病院の食事はあんまり進まないですからｺﾎｯｺﾎｯ」

老夫「しっかり食べて元気になるんだよ」

老婆「はいはい」

医者「佐々木さん、体調はどうですか？」

老夫「では私はこれで……」

両方仲良く安楽死パターン？

安楽死したドナーの臓器使うパターン？

結末特定しようとすんなよ……

ﾌﾟﾙﾙﾙﾙﾙﾙ ｶﾞﾁｬ

老夫「はい、佐々木です」

医者「私、佐々木美代子さんの担当医を務めさせております、後藤病院の後藤です」

老夫「はいはい後藤先生ですね、いつも妻が話に出していますよ。ありがとうございます」

医者「…………今お時間は宜しいですか？」

老夫「はい」

医者「実は、美代子さんの病気の進行ですが……予想以上に進行が進んでおり……」

老夫「……………………は？」

医者「現代の治療法では完治の見込みは……」

老夫「ちょっと待ってください！ハンセン病は早期治療を適切にすれば治る病気だと」

医者「…………大変申し訳ありません。我々の力不足のせいで……」

老夫「ふざけるな！！」

細かいことは突っ込まないでくれると嬉しい

テレビ「……次のニュースです」

テレビ「先日与党より提出された『第二次安楽死制度』改定案が議会で3分の2以上の可決をもって承認されました」

テレビ「第二次安楽死制度は、今までの重病患者のみを対象にした安楽死制度から一歩踏み込み、65歳以上を対象にした全男女に適用されることになりました」

テレビ「背景には、高齢者の犯罪率の増加、年金制度の見直し、少子高齢化があり、この制度の実施は我が国に大きな影響を与えることになるでしょう」

テレビ「また、大きな経済効果が生まれることも予見されており、具体的な数字……｣ﾌﾞﾁｯ

老夫「…………婆さん……お茶……」

老夫と書くとなんかすごい中国拳法の達人に見える

隣人「あらー佐々木さん、お元気ー？」

老夫「ええ、 ……そこの子は？」

隣人「孫ですよ、遊びに来たんです」

子供「…………｣ﾌﾞﾙｯ

隣人「ほら、しっかり挨拶しないと駄目でしょ」

子供「……です。こんにちは」

老夫「こんにちは。可愛いですね」

隣人「ありがとうございます、佐々木さんはお子さんいらっしゃらないんですか？」

老夫「ええ、家内が中々産みたがらないものでして。私としては、孫の顔の一つや二つ見たかったのですがね」

隣人「そういえば、奥さんは？近頃見かけないですけど……」

老夫「ああ…………少し腰をやってしまってね、近くの病院で診てもらってるんですよ」

隣人「そうですか、それはお気の毒に……そういえば、見ましたか？」

老夫「何をです？」

隣人「ニュースですよニュース」

老夫「あの安楽死制度がどうとかですか？」

隣人「はい。アレって、なんだかおかしくないですか？」

老夫「おかしい？」

子供「遊んでていい？」

隣人「遠くに行っちゃダメだよ」

子供「うん！！」

隣人「行ってらっしゃい……、すいませんね」

老夫「とんでもない。やっぱり、子供は遊ぶのが一番ですね」

隣人「そうですね、私達の頃は皆原っぱで遊んだものですから……ええと、さっきの話はどこまでしましたっけ？」

老夫「安楽死制度がおかしいと」

隣人「ああそうでした、聞きましたか？第二次安楽死制度が実施されてから、申請が20倍に跳ね上がったそうですよ」

老夫「20倍？何かの間違いじゃないですか？」

隣人「ニュースでやってたんですよ、申請人数が10万人を越したって。それ聞いて、私急に恐ろしくなってきて……」

老夫「10万人……」

隣人「沖縄防衛戦だって9万ちょっとなんですよ……おかしくないですか？」

老夫「けど、申請してるのは本人なんですから、自由なんじゃないですか？生きる自由があれば死ぬ自由もある」

隣人「そこが余計変なんです。なんで自分から死ににいくようなことをするんでしょうか？ようは自殺ですよ？しかも国がそれを奨励している。経済効果効果があるなんて諸手を振って老人を殺してるんですよ？おかしくないですか？」

老夫「人それぞれ事情があるんでしょう。貯蓄が無いとか、天涯孤独になったとか」

隣人「それでも健康な人は山ほどいるんです。……私はこの国が恐ろしいですよ。これがいつ『権利』から『義務』に変わることやら」

老夫「……私はこれから用事があるので、失礼させてもらうよ」

隣人「ああすいません。これからどちらへ？」

老夫「家内の通ってる病院に。……君にもよろしくといっておいて下さい」

隣人「奥さん、すぐ良くなるといいですね？」

老夫「…………はい、そうですね」

老婆「あらお爺さん、今日は随分と早くに来てくれるのね」

老夫「たまにはな……また痩せたか？何か食べたいがあれば買ってくるが」

老婆「そうですか？そうですね……プリンが食べたいです。病院食は甘い物が少ないので」

老夫「そうかそうか、よし待っておれ。すぐ買って来てやるからな」

老婆「あ、お爺さん。焦って信号無視なんてしちゃ駄目ですよ」

老夫「昔の話だろうに」

老婆「それから買い物する時は財布を忘れないで下さいね、すぐ忘れるんだから」

老夫「分かっているよ」

老婆「お爺さん」

老夫「なんだい婆さん」

老婆「お茶淹れて待ってますね」

研修医「……全く、てんてこ舞いだよ……」

ナース「……安楽死制度導入からひっきりなしですからね……」

研修医「まあ……どんどん死んでくから部屋は空くんだけどね……」

ナース「……それ、患者の前で言わないで下さいよ……」

老夫「…………｣

ﾄｺﾄｺ

店員「いらっしゃいませー！！」

老夫「プリン……プリン……2種類もあるぞ、どっちがいいんだ？」

老夫「…………2つ買おう、婆さんが食べなかった方を食べればいいじゃないか」

老夫「418円か。財布は……なんとか足りるな」

老夫「婆さんの茶が久しぶりに飲めるな……」

店員「ありがとうございましたー！！」

老夫「……ん、雨か」

可決したら真っ先に若者が駆けこんできそうだな

俺らで溢れ返るだろうな

老夫「婆さん、戻ったぞ。お茶はもうはいってるか？」

老婆「…………」

老夫「婆さん？おい、婆さんや？返事をしとくれ」

老婆「……………………」

老夫「……好物のプリンだぞ、しかも2つもだ！婆さんが好きな方な方を選んでいいぞ……本当はわしが1つ食べようと思ってたんだがな……なあ、婆さん」

老婆「……………………」

老夫「婆さん、2つとも食べたいのか？……仕方ない奴だ……なあ、返事をしておくれよ婆さんや……」

老夫「ば……婆さん!!だ、誰か、婆さんを」

冷静睡眠が流行って地上に誰もいなくなる
という星新一のssがあったけどそれに近いな

星新一と言えば死後の世界と交信できる装置が開発されて
人がどんどん自殺していくってな　残ったのは何も信じられない人たちだけだとか

テレビ「……次のニュースです」

テレビ「今日の議会で与党が、『第三次安楽死制度』改定案を提出しました。

テレビ「第二次安楽死制度の成功を受け、与党は、年齢や病状だけではなく、非労働者層全体を対象にした安楽死制度の改定案を提出しました」

テレビ「これに対し、非人道的だ、国が人を殺すことを奨励している、未来ある若者を殺すことはどうなのかなどの反対意見が野党からは出ており、議論は激化を極めております」

テレビ「また、第二次安楽死制度についても…………」

医者「佐々木さん」

老夫「後藤先生！！妻は、美代子はどうなったんですか!？助かったんですか!？」

医者「なんとか一命は取り留めました……」

老夫「ほ、本当ですか？あ、ありがとうございます!!ああ、良かった!!」

医者「…………ただ……」

老夫「……ただ……なんですか？」

医者「もって半年でしょう……」

老夫「そ、そんな！！嘘ですよね？嘘に決まってますよね？ねえ？」

医者「……………………残念ですが」

テレビ「………では次のニュースです」

医者「ハンセン病の症状は様々です。元々らい菌の感染によっておこる慢性感染症で、らい菌は、皮膚、末梢神経、目を犯して病巣を作ります」

医者「まず、髪が白く脱色したり、抜け落ちることになります」

老夫「婆さんや、プリンを買って来たよ」

老婆「……あらまあ、お爺さん、ありがとうございます」

老夫「………………」

医者「次第に視力は低下し、最終的には失明することになります。手の節々は腐っていき、切断を余儀無くされるでしょう。顔の形も変わっていきます。鼻は潰れ耳も萎縮するでしょう」

医者「焼き焦げるような神経痛と、骨が砕け腐るような痛みが続いても、まだ死ぬことはありません」

老夫「なあ婆さんや」

老婆「なんですか、お爺さん」

老夫「お茶の淹れ方を教えて貰えないか？」

ハンセン病って老人でも感染するの？
そもそも今の発症者は全日本人中年に1～2人と聞いたが

医者めっちゃ言うな

国がクズすぎ…

流石にここまでいくと引く
けど医療が発達して増えているのも事実

子供「あ、オジサンこんにちは」

老夫「こんにちは坊や、お婆ちゃんいるかな？回覧板届けに来たんだけど」

子供「うん！待ってて」

老夫「……元気な子供だ」

隣人「はいはい、あー忙しい中わざわざありがとうございます」

老夫「いえ、特にやることなんてありませんから」

隣人「でしたら上がっていきませんか？いい羊羹を娘が持って来てくれて」

老夫「では、お言葉に甘えて」

社会が満足行く生活を支援する余力もないのに
「生きられる限り生きろ」っていうのも
残酷な話かもしれんな

精神体になって永遠にいられれば...

討論番組「各国からも非難の声は挙がってるんだ！即刻辞めろって忠告してきてる国だって少なくない」

討論番組「本当にそうか？よく見ろ、批判してる国の殆どは発展途上国の若年層が多い人口ピラミッドが正常な国ばかりだ」

討論番組「ヨーロッパの国々は大々的に賛成こそしないが、内心では日本に続きたいと思っているさ」

討論番組「私は人道的観念から話をしているんです！！」

討論番組「死なないためだけに生きる屍より、よっぽど人間らしく死ねる人の方が多いと思うがね」

隣人「どうですか？」

老夫「美味しいですよ。婆さんの茶が飲みたくなりますね」

隣人「すいません、お茶淹れましょうか」

老夫「あ、いえ……折角ご馳走になったことですし、私が淹れましょう」

義務化しろとはいわんが、やりたい人には安楽死させてやれよ
死にたいのに死ねない、周りに迷惑ばかりかけ続けるとかどんな地獄だ

このSSでも言ってるけどいつか義務化しそうで怖い

隣人「奥さんの具合はどうですか？」

老夫「ああ……中々ぐっきりいったみたいでね、もう少し様子を見てるところだよ」

討論番組「次の改定案じゃ社会不適合者も入るじゃないか、きっと次は義務化だよ。『老害は死ね』ってね」

老夫「…………」

隣人「あ、切りましょうか｣ﾌﾟﾂﾝ

老夫「……本当に美味しいですね、この羊羹」

隣人「あ、もう抽出時間いいんじゃないですか？」

老夫「おっといけない、婆さんに教わったばかりなんですがね、近頃は忘れっぽい」

テレビ「…………次のニュースです」

テレビ「先日、与党が議会に提出した第三次安楽死制度改定案が、3分の2を下回り、否認されました」

テレビ「安楽死制度について否認されるのは今回が初めてで、野党の勢力が強まっている模様です」

テレビ「また、今回の対象が若年層にまで広がっていることを危険視している党も多く、現在の安楽死制度についてもまた別の改定案を後日提出するとの……｣

老夫「婆さんや、元気か？」

老婆「………………｣ｽｰｽｰ

老夫「……寝てるか…………」

医者「体からは悪臭を放ち、顔は見るも無残な醜い形相になり、腫瘍があちこちにでき、寝ることもままならなくなります。それからは……」

老夫「婆さんや……どうしたらいいんだろうなあ」

三丁目の夕日の、未来を扱った回で
「介護の負担を軽減するため、痴呆老人をペットのような姿に改造する手術が広く行われている世界」
の話があった

突拍子もないようで、それが絵空事じゃなくなる時代がすぐそこまで来てるのかもしれない

医者「私としては、安楽死をお勧めします」

老夫「安楽死？」

医者「はい、もう1月もすれば、症状は進み、痛みで寝ることもままならなくなるでしよう。そうなるよりも、先に人として安らかに死ぬことを、私はお勧めします。幸い、日本ではそれが許されていますから」

老夫「それは、つまり、その、家内を殺すということかね？寿命とかでなく」

医者「いいえ、違います。選ぶのは美代子さん自身です。もちろん、辛い闘病生活を続けるのも本人の自由です。ですが……」

老夫「……一度考えさせてくれ」

テレビ「…………では次のニュースです」

本人に「死ぬか？」って聞くのもなぁ

老夫「……ただいま」

シーン

老夫「……腹が減ったな、冷蔵庫……何も無いか」

老夫「何か買ってくるか……｣ﾃｸﾃｸ

店員「いらっしゃいませー」

老夫「……弁当でいいか」

店員「290円でーす」

老夫「ふむ……あっ、……すみません、やっぱりいいです……」

店員「ありがとうございましたー」

老夫「120円……ジュース一本買えやしない」

老夫「ああ、婆さんの茶が飲みたいなあ」

隣人「いらっしゃい」

老夫「おじゃまするよ、今日も暇でね」

隣人「今日は羊羹は無いけど、ゆっくりしていってね」

老夫「どうも、いつも助かるよ」

隣人「なーに、私も話し相手が欲しかったところなんだ。実は、最近どうも最近は寝相が悪くてね、寝るのに1時間もかかるんだ」

老夫「そうかね、そうかね」

隣人「それで、医者にかかったらなんて言われたと思う？」

老夫「なんだい？」

隣人「『安楽死するほどじゃありませんな』って。もう医者は年寄りを馬鹿にしてるよ」

老夫「ははは、健康でいいじゃないですか」

隣人「そういえば、奥さんはどうだい？すっかり良くなった？」

医者ジョークわろた

老夫「…………それが、その」

隣人「……どうかしたんですか？腰をやって入院してるんでしたよね、奥さん。まさかぎっくり腰で安楽死ってことは無いでしょうに」

老夫「……まさか、そんなわけないですよ。ただ……ちょっと……」

隣人「……本当はぎっくり腰じゃ、ないんじゃないですか？」

老夫「なっ！！」

隣人「もう3ヶ月もぎっくり腰やってるじゃないですか。おかしいと思いますよ、普通」

老夫「それは……」

隣人「悩み事なら聴きますよ。こんな世の中、互いに助け合わないとやってけませんからね」

テレビ「……では次のニュースです」

テレビ「…………次のニュースです」

テレビ「本日開催された議会で、与党より提出された『安楽死制度』が3分の2以上の可決を持って承認されました」

テレビ「安楽死制度は、病気が手の施し様のないほど進行してしまった重病患者を対象にしております」

テレビ「この制度の実施は、人としての尊厳を保ったまま安らかに死を迎えることを可能にするだけでなく、ドナーとして、生きる望みが有る者にその命を繋げる手助けとなります」

テレビ「申請には厳重な検査、調査が必要であり、条件にそぐわない者は申請を却下されることもありますが、難しいことは何一つありません」

テレビ「細かい申請方法につきまして……｣ﾌﾞﾁｯ

老夫「…………嫌な世の中になったものだ」

老夫「おーい、婆さんや。飯はまだかね？」

老婆「はいはい、今出来ますよ」

お、楽しみにしてた

テレビ「先日議会で否認された第四次安楽死制度の改定案が提出されました」

テレビ「第三次改定案との違いとして、先日否認された第三次改定案では、安楽死申請可能対象が非労働層という曖昧な条件であり、また、(仕事を辞めれば)誰にでも適用可能という脆弱性が指摘されており、社会的、人道的観点からも否認されました」

テレビ「それに対し今回の第四次改定案は、職に就いていない人達では無く、先天性の疾患及び知的障害などで仕事がしたくてもできない人達を対象に、実質的に年齢制限を撤廃する方針を見せています」

テレビ「また、各国との首脳対談では……｣ﾌﾟﾂﾝ

隣人「……それはさぞ大変だったでしょう……」

老夫「私は……どうしたらいいんでしょう……安楽死を勧めるべきでしょうか？少しでも長く生きてもらいたいと思うのはおかしいことでしょうか？ ……もう50年も前からずっと一緒に暮らしておったのです。私は一体……どうしたらいいんでしょうか」

隣人「落ち着きなさいよ、佐々木さん。焦ってもいい事は無いですよ」

老夫「妻にはもう時間が無いんですよ！ああ、もういっそ病院を連れ出してやったほうが……」

隣人「佐々木さん！ …………お茶でも淹れましょうか」

隣人「……佐々木さん、ここまで話しを聞いておいてなんですが、やはりこの問題は、私に話すべきでは無かったかもしれませんね」

老夫「そんな……」

隣人「結局のところ、貴方と美代子さんの問題です。私如きの一意見では、惑わせるばかりか悪影響になりかねません」

老夫「そんなことはないですよ……」

隣人「……勇気を出して本人と話し合ってみるべきじゃないですか？ ……私が偉そうに言えるのはそれくらいです」

老夫「…………」

隣人「お茶、ちょっと渋すぎましたね」

討論番組「与党は何考えてるんですかね」

討論番組「年齢制限撤廃を批判されたばかりだっていうのに……これで通るなんて考えてんだ。もうどうしようもないね」

討論番組「ですが、安楽死の年齢制限撤廃はベルギーでも既に制定されています。日本はそれに続いただけだという意見も」

討論番組「ベルギーィ？何を寝言吐いてるんだ！ベルギーの安楽死制度は飽くまで重病者を対象にしている！日本のものとはまるで別物だ」

討論番組「頭おかしい奴らを合法的に殺せるんだろ？何が悪いのか分からないね」

討論番組「アンタその考えは」

討論番組「中絶がありなんだから精神障害者の安楽死だってありだよ。役立たずと馬鹿と殺せばいい。合理的でいいじゃないか」

討論番組「ははは、じゃあ次はテストで0点取ったら安楽死ですかね」

討論番組「ちょ、ちょっと！これ、生放送ですよ……」

受付「番号札を持ってロビーにてお待ち下さい」

老夫「はい…………」

「うわあああああああああああああ」

老夫「な、なんだ？」

大衆「なにあれー？」「キチガイ？」「写真撮ろー」

ニート「しし死なせてくれよ！楽に死ねる薬ぁあ有るんだろ？」

医者「お、落ち着きなさい！落ち着いて」

ニート「ああ朝起きたら親父もババアも安楽死で死んじまったんだ！！ももう死ぬしかねえよ！！」

医者「落ち着きなさい！！病院内では静かにしなさい」


ニート「とっとと楽に死なせろよおお」
大衆「……ああなったらお終いね」「ああ」「死んだ方がいいんじゃない」「よせよ」

安楽死制度怖いけど導入されたら即使うわ

医者「……君は見たところ40歳くらいだね」

ニート「か、関係ねーだろ！」

医者「それも、大声を出せるところを見れば特別重い病気に罹ってるというわけでも」

大衆「頭は逝っちゃってるけどね」「ははは」

医者「安楽死は重病者か高齢者にしかみとめられていない。だから、君に安楽死を施すことは、私には出来ない」

ニート「な、なんで？なんで？」

医者「…………自分で考えなさい」

ニート「それって死ねないってこと？」

医者「親の分まで力強く生きる、それが君の為すべきことだ」

ニート「い……嫌だ！！死にたい！！」

医者「死んでは駄目だ！！死ねば楽しい事も出来なくなるんだぞ！？」

ニート「嫌だ！！働きたくないぃいい！！」

大衆「うわー」「さっさと死ねよ」「やめよーよそういうの｣ｶｼｬ

ニート「……どいつもこいつもバカにしやがって……ふざけるな！！｣

老夫「あ、君！今道路に出たら……！！」

ニート「俺は自由だああああああ！！」

グシャ



テレビ「……次のニュースです」

テレビ「先日提出された第四次安楽死改定案が、議会で3分の2以上の賛成を占め可決、承認されました」

テレビ「代表の……首相は『これからの日本の将来は明るいものとなる』と、笑顔でコメントを寄せています」

テレビ「では、次のニュースです」

テレビ「16日午後4時頃、都内の病院で42歳無職の男性が医師に『安楽死をさせろ』と脅迫をしました」

テレビ「無職の男性は、院内で叫び声をあげて逃走。偶然近くを通りかかったトラックに轢かれ、現在意識不明の重体です」

テレビ「では次のニュースです」

テレビ「アメリカ国防省が先日…………」

お前らって死ぬときも迷惑しかかけないんだな

だから迷惑かけないように死のうとしたのに・・・

老夫「婆さんや、元気かね？」

老婆「あらまあお爺さん、元気ですよ」

老夫「そうかそうか、それはよかったよかった」

老婆「今お茶淹れますね……あら」

老夫「……ゆっくりしていなさい。割れた食器は片付けておくから」

老婆「すいませんねえ、ああお爺さん、リモコン取ってもらえますか？」

老夫「婆さんや、リモコンなら目の前にあるじゃないか」

老婆「おやまあ、すいませんねえ」

老夫「ん、婆さんや、昨日は風呂に入らなかったのかね？」

老婆「いいえ、ゆっくり湯船に浸かりましたよ、お爺さん」

老夫「……そうかそうか、それはよかったよかった……」

子供「病院行きたくないよぉ」

母親「ワガママ言うんじゃありません！ほら、行くよ」

ﾄﾃﾄﾃﾄﾃﾄﾃ

母親「あれ、閉まってる？」

医師「診察ですか？」

母親「あ、お医者さんですか？実は子供が熱出しちゃったみたいで……」

医師「……すみません、今はお引き取りお願いします」

母親「……何かあったんですか？」

医師「……医者がやることじゃないと分かってはいるんですが……」

子供「ママー、どうしたのー？」

母親「ストライキですか？」

医師「…………はい」

医師「安楽死制度が実施されてから、僕も何度か手を下しました」

母親「はあ」

医師「その度に思うんです。 ……僕は人の命を救う為に医者になったはずなのに、なんで人の命を奪ってるんだろう、って」

母親「はあ……」

医師「中にはメイクをして来てる人もいたんです。 ……もう、僕には耐えられません」

母親「でも、それで救われた人もいるんでしょう？それならいいんじゃないですか？」

医師「いないんです、そんな人！！耐え難い痛みから解放されたいなんて人、僕が受け持った38人の中には、一人も！！」

母親「……あの、その……」

医師「…………今開けます。少しだけお待ち下さい」

老夫「なあ…婆さんや、話があるんだ」

老婆「なんですか？お爺さん」

老夫「実は……その……実はな……」

老婆「私のことなら心配なさらずに」

老夫「お前さんのことで……」

老婆「自分の体の事は、自分が一番分かってるつもりです

老夫「話が………」

老婆「お爺さん……」

老夫「……………………やめてくれ」

老婆「私、安楽死を受けようと思います」

老夫「やめてくれ！！！！」

老婆「……もう足は動きません。目もよく見えません。鼻は潰れて腐り始めています。 …………あなたの顔も、もう分かりません……」

老夫「やめてくれ……………」

老婆「あなたは私と違って健康です。私なんかがいたら、それこそ気が滅入ってしまいますよ？」

老夫「そんなことあるわけないだろう！！ずっと傍にいよう。足が動かなくても車椅子がある。目が見えなくても、見えるもの全部を話す。生きてくれ！少しでも長く！！」

老婆「お爺さん……私ももう70です。十分長く生きたつもりです」

老夫「100まで一緒に生きると約束しただろう？」

老婆「……約束守れなくて、ごめんなさいね」

老夫「頼む、死なんでくれ！！」

老婆「……お爺さん、お茶を淹れてもらえますか？」

老夫「茶？」

老婆「緑茶に含まれるテアニンは心を落ち着かせてくれるんですよ？ ……一緒に飲みましょう」

老夫「…………どうだ？」

老婆「……おいしいですよ」

老夫「婆さんが教えてくれた淹れ方だからな……」

老婆「そうですねえ…………」

老夫「………………」

ﾁｸ……ﾀｸ……ﾁｸ……ﾀｸ ……

老夫「……婆さん」

老婆「なんですか？お爺さん」

老夫「お前といれて、幸せだったよ」

老婆「私もですよ」

テレビ「……次のニュースです」

テレビ「今日の議会で、第5次安楽死制度改定案が3分の2以上の賛成で可決されました」

テレビ「バチカンはこれを受け、ローマ教皇が『日本はあの史上最悪のナチスと同じ道を辿っている』と正式に批判表明をし、各国に安楽死の危険性について呼びかけています」

テレビ「日本はこれに対し強気の姿勢を見せております」

テレビ「次のニュースです」

テレビ「今年度の日本のGDPが、昨年度より8.2%の増加を見せ…………」

END

なんでもないことが幸せだったと思ふ

これで終わりです
前スレ見てくれてた人ありがとう
駄文でした

乙
面白かった

怖いけどおもろかった
乙

乙
俺がニートになってる頃にはこうなってるといいな